■ブラック勤務の解消は子どもたちのためにも…

現在3000を超えるYouTubeでのコメントの一つに「教員の働き方改革は教員のためではなく、子供のためなんです」というものがあった。

実は、私も当日のVTR放送後のスタジオで「先生たちが心身ともに健やかであることは重要だ。いじめ対策でも、ブラック勤務で疲れきった先生が適切に予防したり、対応したり、できるはずがない。ひどいケースでは“楽(らく)しよう”と、見て見ぬふりをするのではないか。まずは何よりブラック勤務の解消からだ」と述べた。

連載で述べてきた“いじめの芽”を摘み取ろうとする、いじめ予防の観点からも、ブラック勤務の解消は重要だ。現在、教育現場の最前線に立つ教職員たちの心と体に余裕がなければ、子どもたちへの丁寧な対応、適切な対応はできないのではないだろうか。
いじめ予防の大前提は「教員のブラック勤務の解消」だ。

■未来の教員たちのためにも…

今後“いじめ予防”をすすめるには、教育現場に、いじめ予防や対策が適切にできる教員たちに新たに加わってもらうことも重要だ。ところが、ブラック勤務問題もあって、教員志望の学生は減っていて、教員の質の維持が難しくなるとの懸念が出ている。

文科省によると、2021年度採用の公立小学校の教員採用試験の競争倍率は2.6倍。長期低下傾向にあり、3年連続で過去最低になった。

一般社団法人「日本若者協議会」は教員志望の学生たち211人にアンケート調査を実施、今月11日に発表した。それによると、教員志望の学生が減っている理由として、94%が挙げたのが「長時間労働など過酷な労働環境」だった。その自由記述から大学3年生のコメントを紹介したい。

大学生・3年:
教員になりたいという気持ちはありましたが、あまりにも多すぎる業務、当たり前になっている残業。それに対する残業代は給特法により固定。働き改革は果たして形ではなく本当に教員のために行われているのか。入学時は教員を目指していた友人たちも、学べば学ぶほど教員を目指さなくなっていきました。今の労働環境では、正直やりがいだけではやっていける自信がありません。

大学生・3年:
周囲の教員志望だったひとの3分の1が志望をやめています。その理由は、労働環境と、それに伴って満足に授業準備ができないことへの不満です。教職に魅力がないわけではありません。そこで自分が輝けないと判断していることが原因です。安心して子どもたちと接することのできる環境を願っています。

こうした現状を政府は、そして国会議員たちは、どう捉えているのか。

“諸悪の根源”だと亡くなった嶋田友生教諭の父親も指摘した「給特法」の抜本的な改正について、文科省に聞くと、「2022年度の勤務実態調査を見て検討する」とのこと。2016年以来の本格的な調査になるが、コロナ禍の今、比較は難しいだろう。数字に頼らず、現場の窮状を歩いて見て、悲痛な声に耳を傾け、急いで対応すべき問題ではないか。

執筆者:TBSテレビ「news23」編集長 川上敬二郎

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