■近くの学校が“いじめゼロ”なら・・・ 

文科省「いじめ防止対策協議会」座長を2014年から亡くなるまで務めた、いじめ研究の泰斗・森田洋司(1941-2019)は、「いじめの認知件数は確かに増えてきたが、まだまだ少ない」と嘆いていた。全国の児童生徒数は、小中高校で約1300万人いるが、いじめ認知は61万件(2019(令和1)年度調査)。全体の児童生徒数からすると5%にも満たない。

これだけ国も “いじめ認知を!”と積極的に呼びかけているのに、未だに6校に1校(16.3%)は、「うちの学校には1件たりともいじめはありません!」と言う。“認知ゼロ”を宣言するなら児童生徒や保護者にも公表を、と毎年のように文科省も通知で呼びかけているが、「認知件数ゼロ」学校のうち、公表しているのは半数に過ぎない(総務省による勧告の際に行われたサンプル調査・平成27年度)。

公表すれば、被害児の保護者らは「いやいや、あるでしょ?」「うちの子のケースはどこに消えたの?」と声をあげやすくなるかもしれない。実際、いじめの中には巧妙に隠されたものもあり、そのような場合、教職員の観察やアンケートだけでは気づけない。だからこそ「いじめゼロ」を公表し、保護者や地域住民に検証を仰ぎながら、“漏れ”がないか、確認する必要がある。それは子どもたちの安全・安心な学校を実現するためだ。


(森田の講演スライドより)

■いじめ認知件数=“心の傷”に寄り添った数

森田は「教育は全て中心には子どもがあります。だから子どもたちにとってどうなのか。そこを照らして考え、行動するのが大事なポイントです」と言っていた。


森田洋司(1941-2019)
愛知県立大学・大阪市立大学・大阪樟蔭女子大学・鳴門教育大学などで教育・研究を行う。2003年から日本生徒指導学会の会長を、2014年から文部科学省「いじめ防止対策協議会」の座長を、亡くなるまで務めた。(写真提供:鳴門教育大学)

私たち地域住民も、学校のいじめ認知件数や推移を冷静に見守りたい。ある学校で件数が増えると、“あの学校はいじめが多い”などと校長が批判されることもあるというが、その評価の仕方を変える必要がある。いじめの認知件数が増えたら、積極的・肯定的に評価する。逆にこれだけ定義が広くなったのに“いじめゼロ宣言”を出されるなら、「本当ですか?」と疑って気にしてみる。認知件数の多さは、教職員が子どもたちの命を守るためにきちんと認知し、寄り添い、対応した証とも言えるからだ。

生徒指導の専門でもあった森田は、「不登校や暴力行為といじめは数え方が違う」と言う。曰く、いじめ認知件数は子どもたちの“心の傷”の数であって、その傷に対応しようとした分、数も増える。全体の児童生徒数からすると、わずか5%という認知の現状からすると、もっと掘ろうとすれば、いくらでも出るはずだ。

まずは「認知件数の増加」に対する誤解を解く。認知とは“気づき”であり、いじめ解消に向けた取り組みのスタートラインに立てたことを示す素晴らしいこと、と理解されなければならない。講演の度に森田は、こうした“認知”の問題について触れ、「認知とは出発点です。気づかないと、何も始まらんのですよ!」と声を大にしていた。


(森田の講演スライドより)