■急逝4カ月前・気迫の講演

いじめ認知における先生間・学校間・地域間の“格差”や“バラつき”問題を紐解くには「いじめの定義」の話を避けることができない。何をいじめとし、何をいじめとしないか。その境目を、いじめ研究の泰斗、故・森田洋司は、どう語っていたのか。

2019年の大晦日に亡くなった森田は、死のわずか4か月前にも講演をしていた。場所は、兵庫県多可町。この町では2017年5月、当時小学5年生の女児が自ら命を絶つ重大事態が発生した。

女児は4年生のころから仲間外れにされたり、他の児童と遊ぶことを制限されたりし、精神的に疲弊して自殺に至った。2019年3月、多可町いじめ調査委員会は町に「いじめが自死の最大の要因」と調査結果を報告。報告書には、女児が4年生の時の全員へのアンケートで女児がいじめを受けていることをうかがわせる回答が複数あったのに、担任教諭が対応していなかったことも問題点として指摘された。

2016年6月と9月の「いじめアンケート」では、「あなたは今、いじめられているように思いますか?」という質問に、女児が「なんとなく」の「な」に〇を付けかけた跡があった。11月のアンケートでは「はい」に〇を付けて消した跡があった。しかし、学校の対応はなかった。

さらに同年11月の「友だちアンケート」では、3人が「女児が仲間はずれにされていた」と記載していたのに、その事実関係すら調査しなかった。当時の多可町は「いじめ認知」に消極的で、いじめの記載への対応もしないまま、結局、この女児の自死という最悪の「重大事態」を招いてしまったのだ。

■森田洋司の一喝

その後、多可町は再発防止に向けて、動き出した。教職員の資質向上を目的に教職員研修会を計画し、森田洋司に講演を依頼した。2019年8月19日、会場には町内全ての公立学校、小学校5校と中学校3校の全教職員200人以上が集まった。

講演のタイトルは「今、改めて見直す。いじめの捉え方と対応のあり方」。当日病気などで参加できなかった教職員のために講演は録画され、後日、視聴するよう町教委から指示が出た。私もその映像を見た。

冒頭、多可町の担当者による森田の紹介が終わると、森田は「そんな偉いもんじゃない。その辺にいるおっちゃん、おじいちゃんや」と言いながら、早速、教職員たちに問いかけた。

「2013年施行の『いじめ防止対策推進法』についてです。“法律やから守れ!”というのではないのですが、この法律を読んで、学校で話し合いをしたことがある人は手を挙げて!」。手はあまり挙がらない。森田は続けて、「じゃあ運転免許、持っている人?」と聞いた。こちらは大勢の手が挙がった。

ここで森田は一喝した。

「免許とる時、何いります? 運転する人は道路交通法を知らな、あかんでしょ。むこう(運転)も人の命がかかっている。でも、こっち(教育現場)も命がかかっている。人の命を扱って子どもを指導する皆さんが、法律を読まず、内容も知らず、研修もせず!これは道交法を知らずして車を運転するようなもんや!全体をまとめて書いてある法律に何が書いてあるのか。これをどう解釈して自分たちの現場へおろすのか!?」。会場は静まり返り、緊張感が高まった。


(写真提供:多可町教育委員会)

と、今度は急に穏やかな声になって、「まず最初、一発カツーンと。私も大阪の人間ですから言いたいことは言います」とユニークな表現で“先制パンチ”をかましたのだと宣言した。