社会の不安が土壌となるデマ
最近、「7月5日に地震がある」という話があったでしょう。すごい勢いで拡散されて、一瞬にして消えてしまった話題です。社会が底知れぬ不安を抱えていないと、ああはならないだろうと思います。物価高、生活苦、賃金が上がらない状況、展望のなさ…。「○月○日に地震が起こる」というのは完全にデマですが、底流でつながっているのではないかなという気がします。私が長崎県雲仙・普賢岳災害の取材を続けていた時にもデマがありました。
【雲仙噴火災害(1990~1995年)】
197年ぶりに噴火した長崎県雲仙・普賢岳で、1991年に大火砕流が発生、43人が死亡した。立ち入りを禁止する警戒区域が設定され、住民は強制避難。最大時には1万人を超えた。1993年にも火砕流、土石流が頻発。1995年に噴火は収束したが、直接被災していない住宅や農地、ホテルなども荒れ果て、大きな被害を受けた。
普賢岳災害はとにかく長く、「一体いつまで続くんだ…」とみんな疲れ果てていました。「7月23日に普賢岳が大噴火する」というデマが流れ始めました。1993年は火砕流が連日起きていました。デマが流れたのは2年ぶりに死者が出た直後でした。
九州大学の心理学の先生に話を聞いたら「最悪でもいいから、答えが欲しい」という気持ちがデマの広がる土壌になっている、という答えが返ってきて、すごく腑に落ちた記憶があります。何か、答えが欲しい――。私たち一人一人の心の中に、「何か解決策を出してくれ」というマグマみたいなものがあったからこそ、今回の地震デマ騒動が起きたと考えられなくはないでしょうか。
参院選も、不安、不満のマグマの噴出が、参政党と国民民主党の躍進につながり、既成政党とは違う形の展開をしている党に力がどんどん集まって、従来の秩序でやっていた組織政党は軒並みだめだった。社会が変革を本気で求め始めているのに、現状は応えきれてないのがこの結果を招いたのではないか、という感じがしました。
不寛容を煽る参政党代表の発言
今回大躍進した参政党ですが、神谷宗幣代表の発言などでいろいろ物議を醸しています。首をかしげるようなこともかなりあり、より強く受け止めて周辺で声を上げている支持者もいますが、よくよく聞いてみると、代表の言っていること自体はそこまでではないかもしれない、と思ったりもする時もあります。
例えば「日本人ファースト」。その延長線上に、「外国人の生活保護の受給率がー!」とか、「国民健康保険料をどうするんだ!」とか「日本人ファーストだから外国人移民はだめなんだ」とか、強い言葉を語っている支援者、支持者は多くいます。
開票当夜の記者会見で、「そういう人たちがいることをどう思うか?」と繰り返し聞かれた神谷代表は「参政党支持者・支援者を装う反対勢力が紛れ込んでそういう行動を取っている」と言ったので、「さすがにそれはなかろう…」とかなりびっくりしました。
このように、言葉が強く、煽るような言葉遣いが非常に巧みなので、そこに連動して社会が不寛容になっていく。そんな効果がある気がして、「ちょっと怖いな」と感じています。今回の選挙で大きな議席を持ったので、今後は責任政党としての発言をしていかないといけないでしょう。