◆最後まで私の全力を尽くします

<幕田稔の遺書(昨日今日の日記)>
どんなに苦しくても、歯をくいしばって自分でやり通す覚悟を持ちなさい。人間の能力は皆五分五分です。努力如何でどうでもなるものです。私はこの先も最後まで私の全力を尽くします。否永久に。
数時間といえども私は決して投げません。最も有効に使うつもりです。悲惨なる東洋民族の勃興を見つつ、そして彼等のために死ぬると思えば気持ちがよい。誰が何といおうと、私の心中に燃えていたものはそれなんですから。今から日本人も大人にならなければなりません。
皆さんその心算で一人立ちで人生を歩く決心をしなさい。だからといって母上はじめ年長の人のいうことはとくにきいて考えなければいけません。間違いのないように。
◆若い人は先人を踏み越えて進め

幕田の父は敗戦時、満州からソ連軍に連行され、その年の10月9日、抑留所内で栄養失調で亡くなっている。
幕田は母や3人の妹弟を養うために北海道の魚粉会社に勤めていたときに、米軍に拘束された。スガモプリズンの基礎データでは職業は「オフィスワーカー」となっているので、事務職だったということだろう。
<幕田稔の遺書(昨日今日の日記)>
父上も実に気の毒なことをしましたが致し方ありません。若い者は先人を勇敢に踏み越えて進まなければなりません。過去をくよくよしているのは年寄りだけです。斃(たお)れるまで前進あるのみ。
書いていると懐かしさの情が次から次へ順序も連絡もなく限りがありません。私も人生あと五十年として二十年生きていても、ただ酔生夢死するのがオチであるかも知れません。今のぐらいが丁度よいところだと思います。私の決して年寄らざる印象を皆さんに残して行けますから。