経済非効率な関税策が支持される背景
そもそも、経済学は「自由貿易には経済的メリットがあり、関税は非効率」と主張する。
しかし、これは「一国全体への総合的な影響」を指摘しているだけであり、自由貿易は勝者と敗者を生む。大多数の消費者が安い輸入品の恩恵を受ける一方、輸入品との競争に敗れて閉鎖を強いられる工場や職を失う人々がいる。
米国の就業者に占める製造業の割合は8%に留まる(2024年)。経済的に「8%が得をし、残りの92%が損をする」関税策が実行される現状は、多数決という民主主義の原則を考えるとしっくりこない。
そのからくりは米国の選挙制度にある。米国大統領選は各州に割り当てられた選挙人を勝者が総取りし、全米で過半数の選挙人を獲得した候補が当選する。これに勝つためには共和党と民主党の支持が拮抗する「激戦州」を制することが重要だ。
2024年選挙であれば、勝敗を左右するとみられた激戦州は7つ、このうち3つは製造業が衰退している中西部(所謂「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」)に位置していた。すなわち、米国内の製造業を軽視しては大統領選に勝つことはできなかった。