ラストベルトの政治的重要性は続くのか?

ただし、こうした一部製造業の強い政治力は2030年代に転換する可能性がある。

米国は10年ごとに国勢調査を実施しており、同調査の人口に基づき大統領選における各州の選挙人が再配分される。次回2030年国勢調査の結果、32年大統領選では人口の流出するラストベルトの選挙人が減少すると見込まれる。

リベラル系シンクタンクのBrennan Center for Justiceは2024年7月までの人口動態に基づき、現在の激戦州であるペンシルベニアとウィスコンシンの選挙人が1人ずつ減少すると予測する。

大統領選の選挙人538人のうち僅か2人と読者は思うかもしれないが、その影響力は無視できない。24年選挙では民主党のハリス候補がラストベルト3州全てで勝利すれば当選確実であり、共和党のトランプ候補はこれを絶対的に阻止しないといけなかった。

一方、32年選挙の民主党候補はラストベルトの激戦州を制するだけでは当選できない。

また、共和党候補は人口が増える南部の激戦州を制して勝利できるパターンが生まれる。特に南部のアリゾナ州などでは連邦政府の補助金を追い風に先端半導体への巨額投資が進行中だ。

こうした半導体産業への投資が身を結び、2030年代に国際競争力を有する場合、これらの製品の輸出拡大策が政治的なアピールになるかもしれない。

すなわち、選挙戦におけるラストベルトの重要性が弱まるに伴い、国内製造業を保護する政治的な必然性が低下し、自由貿易への再転換に繋がる可能性がある。

もちろん2030年国勢調査には5年残されており、今後、人口移動のトレンドが転換したり、既存の激戦州が入れ替わったりする可能性がある。2030年代に民主主義の「多数決の原則」がより効くような政治力学の変化があるのか、各州における人口動態や政治志向の変化に注目したい。

※なお、記事内の注記については掲載の都合上あらかじめ削除させていただいております。ご了承ください。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 前田和馬)