米アップルが昨年、複合現実(MR)ヘッドセット「Vision Pro」を発売した際、この製品には3つの主要な欠点があった。3499ドル(約53万円)以上という価格の高さ、装着時に快適とは言えないデザイン、コンテンツの少なさだ。

新型半導体「M5」を搭載した新しいモデルが今月登場したが、アップルは価格の引き下げも、コンテンツの大幅追加も実施していない。ただ、「デュアルニットバンド」と呼ばれる新しいヘッドストラップによって快適性を巡る問題に対処した。

このヘッドストラップは全ての新しいVision Proに同梱(どうこん)されており、既存ユーザーも99ドルで購入できる。現行のVision Proのユーザーが最新モデルにアップグレードする理由はほとんどない。実際の使用において、プロセッサーの速度向上はごくわずかだ。

Vision Pro用「デュアルニットバンド」

新たなストラップには、後頭部と頭頂部の両方を支える厚手の調整可能なパッドが付いている。

初代のVision Proに標準で付属していたストラップは、後頭部しか支えていなかった。一方、オプションの「デュアルループバンド」は薄い面ファスナー製のストラップを使い頭頂部と後頭部の両方を支えたものの、サポート力が不十分だった。

この2つのストラップはいずれも、十分機能しなかった。多くのユーザーは顔や額、首、後頭部に圧迫感や痛みを感じたという。8年をかけてこのデバイスを開発したにもかかわらず、アップルが発売前に快適性の問題を十分に理解していなかったのは驚きだ。

導入すべきアップグレード

デュアルニットバンドを初めて手に取ると、以前のストラップよりも重く感じる。追加されたクッションや金属製のパーツが理由だ。ただ実際に装着してみると、ヘッドセットは明らかに軽く感じられる。

新しいバンドを装着した状態で目立った痛みや不快感を抱くことはなく、Vision Proを1時間超使うことができた。その観点からすれば、Vision Proを既に購入しているユーザーにとって、デュアルニットバンドは、迷うまでもなく導入すべきアップグレードだ。

頭頂部と後頭部の締め具合をより細かく調整できるようになり、全体的なフィット感が向上。実際に使用すると、目の位置に以前よりも正確に合わせられるようになり、瞳の向きを検知する精度も高まった。

ただ新しいストラップによって、より多くの消費者がVision Proを買うのかというと、可能性は低い。価格が依然として購入のハードルとなる。

サードパーティーの開発者たちは、現在ビジネス向けのアプリケーションに力を注いでいる。アップルは開発の重点をスマートグラスに移しており、「Vision Pro」刷新に向けた計画を一時停止した。

バンドの締め具合を調整するダイヤル
デュアルニットバンドは、アップルが当初からVision Proに同梱すべきだった製品だ 

原題:Apple’s New $99 Strap Makes Wearing the Vision Pro More Bearable(抜粋)

--取材協力:Chris Welch.

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