『ウクライナ・プラウダ』 セウヒリ・ムサイエワ編集長
「“自主規制”という現象があります。支援や社会の団結に影響を与えかねないために戦時下で汚職について報道してはいけないと思っている記者もいます。

私はこの意見に大反対です。戦時下においては汚職のような事実を社会から隠してはいけないと確信しています。私たちは色々な規制の中で生活して仕事をしていますが、情報に関する規制もあります。

だからと言って検閲をしたり口止めをしたりしてはいけません。ロシアのミニバージョンを作ってはいけないのです。絶対にそうならないし、非常に高い代償を支払ったウクライナ社会はそうさせないのです」

毅然と語るムサイエワ編集長の人物についてウクライナ研究の専門家、岡部芳彦教授は言う。

神戸学院大学経済学部 岡部芳彦教授

「ムサイエワさんはクリミアタタール人でして、ウクライナの少数民族出身なんです。実は、本当か噓かわからないんですが、2019年にゼレンスキー氏が大統領に就任した時、彼女に報道官を打診したんじゃないかと伝えられるくらい、かなり有能な、そして芯の強い人。仮に打診されていたとしても受けなかった人なので、自分を曲げて伝えるべきことを報道しない、ということはないんじゃないかと…」

私たちは民主主義国家になるために戦っているのです。」

独立系のネットメディアが、骨のある調査報道を展開する一方で、ウクライナの大手放送局はどんな存在なのか…。

2021年の段階では視聴率でランキングした放送局上位5社のオーナーを見てみると第1位の局『1+1』のオーナーは、実業家で元知事でもある富豪、コロモイスキー氏。いわゆるオリガルヒだ。

第5位の局『ウクライナ』のオーナーも、実業家で元国会議員のオリガルヒ。驚くのは、2位『STB』、3位『ICTV』、4位『NOVY』のオーナーは同一人物。ウクライナを代表するオリガルヒ、ピンチュク氏だ。

2019年大統領になったゼレンスキー氏が、英BBCに“なぜオリガルヒのテレビ局に出演しているのか”と問われ、“この国のテレビ局は全てオリガルヒが所有している”と答えている。

岡部教授によれば、ウクライナのテレビは、オリガルヒが自らの主張をアピールする場だという。

神戸学院大学経済学部 岡部芳彦教授
「番組を見ているとそのものずばりで、オーナーのオリガルヒの主張が流れてます。(中略)前の大統領のポロシェンコさんは『5チャンネル』というのを持っていて、今も資本関係にありますが、かなりポロシェンコ推しの報道をやってた。

実は(3月31日施行の)新法は、EUから“EUに入りたければメディアをオリガルヒと資本分離しなさい”って言われて出来たって側面もあります」

つまりウクライナのメディアに関する新法は、言論弾圧、報道規制などとは目的も性格も異なるという。

ただし、ロシアのプロパガンダやソ連時代を賛美するなどは、禁止内容として明記されている。

しかし、法律は時の政権の解釈によって在らぬ方向に機能しないとも限らない。

ムサイエワ編集長に最後に聞いた。
“もしもゼレンスキー大統領の汚職について情報を掴んでしまったらどうするか”