戦争と報道…。そのあるべき姿と実際は、戦争のたびに論じられてきた。今まさに激しい戦闘が続くウクライナで、3月31日新しい法律が施行される。

メディアに関する法律だ。

その中に“特定の自由の制限は、国家安全保障、領土保全または公の秩序の利益のためにのみ出来る”とある。メディアに配慮されているように見える表現だが、これらの条件に抵触すれば、自由を制限出来るという見方もできる。ウクライナの報道の自由は守られるのか、議論した。

「自国の損失ではなくロシアの損失を公開するようになりました。」

戦時下の報道については、一概に規制すべきではないと言い切れない難しさがある。番組では、ウクライナの独立系インターネットメディアの編集長にインタビューした。

この『ウクラインスカ・プラウダ』は、自由な報道を掲げ、2000年に設立されている。設立の半年後、創設者のゴンガゼ氏が首を切断された状態で見つかった。

彼は、ウクライナの当時のクチマ大統領を強く批判していた。実行犯は捕まったが、誰の指示だったのかいまだ不明だ。

この事件を機に“クチマのいないウクライナを”という反政府運動が広まり、その後のオレンジ革命につながった

番組が話を聞いたムサイエワ氏は、ゴンセガ氏の遺志を継ぎ、2014年から編集長に就き、政治家や高官の汚職などを報道している。

『ウクラインスカ・プラウダ』 セウヒリ・ムサイエワ編集長
「ウクラインスカ・プラウダが行っている調査報道は、抑止力であると考えます。汚職に関わろうと思っている人も“その汚職は報道されテレビで映る”とわかっていれば、事前によく考えると思います。」

去年の大統領府副長官ティモシェンコ氏が解任されたきっかけとなった調査報道も『ウクラインスカ・プラウダ』によるものだった。

この調査報道では、情報提供者を探そうとする動きがあったなど、権力側の圧力を感じたこともあったという。

『ウクラインスカ・プラウダ』の調査報道は、朝日新聞・駒木明義氏も“尊敬に値する報道を続けてきている”と高く評価している。しかし今、戦時下ゆえに通常の取材や報道ができないという。

『ウクラインスカ・プラウダ』 セウヒリ・ムサイエワ編集長
「ウクライナ社会はウクライナ軍の損失を知りません。2014年(クリミアでの)戦争が始まった時は、ウクライナ軍の損失も公開していましたが、今はやり方が変わって、自国の損失ではなくロシアの損失を公開するようになりました。

今ウクライナで起きているような(侵略からの防衛)戦争の中で、そういった規制も理解できます。私たちが規制されているのは軍隊の移動、兵器の移動に関する情報を公開しないこと、立ち入り禁止区域に入らないこと、再攻撃の可能性があるのでミサイル着弾直後の写真や動画を公開しないこと、燃えている工場や発電所を背景に中継しないことです。

これらは合理的ルールとして理解できる内容です。民間人、現地人、記者たちの命にとって危険だからです」

「ロシアのミニバージョンを作ってはいけない」

戦時下において、政府や高官の粗探しのような報道をすると、国がひとつに結束しようとしている時に水を差すのはけしからん、といった声が上がるのもまた事実だ。しかし、ムサイエワ編集長はこの点についても断固とした考えを持っている。