◆負けることが嫌いだった松雄
一方、上新原種義にとって、同じ隊にいた5歳年上の藤中松雄も親しく付き合った仲だった。
<想ひ出 上新原種義(「七氏を偲びて」1951年より)>
「オイ、ノロケばかり言わんで、トランプでもして遊ぼうや」
藤中兄は立ち上がって机の上のトランプを取り出して各人に配った。いつも私らが集まっては楽しいひとときを過ごす。「ノートランプ」の遊びである。「お、俺の手はいいぞ」いつも彼の持った組み合わせは悪くても「俺の手はいいぞ」と相手を威嚇する藤中兄の癖である。相手に負けることの嫌いな彼は、何をやっても元気だけで勝ち通した。
石垣島での兵舎作り、戦車壕掘り、陣地作り。彼の元気な姿が目の前に浮かんで来る。昼中でもあの空襲のはげしかった頃の船の荷揚げ作業で波止場に立った姿、疾走するトラックの上の彼の姿が、あたかも走馬灯の如く浮かんでは消える。
◆部下を気遣い、率先して自ら作業
松雄は軍隊に入る前、故郷の祭りの時などは、みんなに指示を出したりしてまとめ役をするような人だったという。石垣島警備隊でも下士官として、現場のリーダー的立場で作業を進めていたようだ。
<想ひ出 上新原種義(「七氏を偲びて」1951年より)>
「ご苦労だね、お、だいぶ進んだね」
あの石垣島のバンナ山の防空壕掘りに夜昼となく一生懸命だった頃、負けず嫌いな彼の気質から夜も落ちついて寝られず、壕掘りの進行を見に来たのだろう。
「ハッ、どうも固い所に突き当たった様で思う様に掘れません」
「そうか、俺が少しやってみる、お前は休んどけ」
昼の疲れもいとわずに自分の責任を感じ、又、部下の苦労を思えばこそ・・・。出て来ては私らを励ましてくれる彼であった。彼の苦労、お互いの努力によって第一位の好成績を収め、本部より酒などをもらって、肩たたいて喜び合った。
















