“検閲”を強要しだした「戦争省」(国防総省)
アメリカの国防総省(トランプ政権は「戦争省」と呼んでいる)は、9月19日、メディアに対して新たな「取材ガイドライン」を示し、同意の署名を求めた。
その中には「国防総省に関する情報は公開される前に当局者の承認を得なければならない」と明記されていた。当局による“検閲”を受け入れろと言っているのに等しい記述だ。権力からの独立が欠かせない報道機関にとって、受け入れられる内容ではない。
国防総省は署名しない報道機関に対しては国防総省の建物に出入りできる記者証を返納するよう求めて圧力をかけたが、リベラル系の「ワシントン・ポスト」や「ニューヨーク・タイムズ」などにとどまらず、保守系の「FOX(フォックス)ニュース」(ヘグセス国防長官にとっては番組キャスターを務めていた“古巣”だ)、親トランプ氏のケーブルテレビ「NEWS MAX(ニュース マックス)」なども署名を拒否。
結局、署名をしたのは保守系ケーブルテレビの「ワン・アメリカ・ニュース」と保守系ウェブメディアの「フェデラリスト」にとどまったとみられている。TBSテレビを含む外国メディアも署名をせずに記者証を返納した。
普段はトランプ氏を応援する保守系のメディアですら、「言論の自由」が奪われることには強く抵抗した格好で、トランプ政権としては既存のメディアを通じて国防総省の動きを伝えることは難しくなった。
しかし、トランプ大統領はまったく動じる様子はない。「ヘグセス長官は報道機関がアメリカの安全保障にとって有害だと考えていると思う」「報道機関は非常に不誠実だ」などと述べ、既存のメディアを通じた情報発信には重きを置いていない姿勢を改めて示した。
トランプ政権は意に沿わない報道をしたメディアに対する裁判も繰り返している。そして、監督権限を持つFCCの軋轢を恐れるテレビ局や親会社が和解を選ぶ例も相次いでいて、それがトランプ氏側を勢いづかせている側面も否めない。トランプ政権はABCテレビとCBSテレビからはそれぞれ20億円を超える巨額の和解金を勝ち取ることに成功していて、キンメル氏の番組の再開をめぐっても、ABCテレビを提訴する可能性を示している。
トランプ第二次政権はまだ3年以上続く。「言論の自由」、そしてその担い手を自認してきたアメリカメディアに対する風圧は強まる一方だ。「言論の自由」を重視してきたアメリカ社会の価値観も変化していくのか、今後も報告していきたい。
〈執筆者略歴〉
涌井 文晶(わくい・ふみあき) JNNワシントン支局長
2004年TBS入社。政治部と経済部で首相官邸・経済産業省・日本銀行などを担当したほか、「NEWS23」の制作を担当。経済部デスクを経て、2023年4月からワシントン特派員。2025年7月から支局長を務める。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。














