小林は市民ランナーとして楽しく走る道を選ぶこともできたのに、自ら実業団選手の道を選んだ。その覚悟があるからこそ、ポイント練習には「絶対に外せない」(小林)という姿勢で臨む。以前の取材で小林は、スタッフが自身のタイムをとることをプレッシャーに感じている、と話したことがあった。「(大学まで)1人で好きに走っていた身なので」と理由を説明したが、ポイント練習に真剣に取り組んでいることの裏返しでもある。

しかし河野監督から見れば、ポイント練習もほぼ完璧にこなしている。東京世界陸上に向けて「外したのは1回だけ」(河野監督)だった。前述の30km変化走の評価が河野監督は合格点なのに、小林自身は「6か7」となるのは、2人の立ち位置の違いから生じて当然で、そんな2人だから良い化学反応が起きている。

小林が1人で押しきる練習ができる理由の1つに、ジョグをしっかり走っていることが挙げられる。7月の月間走行距離は1380kmで1日平均44.52kmになる。何km走るということを目指しているわけではなく、ジョグが好きなのでいくらでも走れてしまう。その結果が1380kmという数字になっただけなのだが、これは全盛期の野口みずき(アテネ五輪金メダリスト)に匹敵する。

湯の丸でポイント練習として、起伏の激しいコースで24km走を行った日があった。その練習後に宿舎まで車で帰ることもできたが、約8kmの上りを「ジョグだったら走れます」と言って帰り、河野監督を驚かせた。前述の赤﨑がパリ五輪コースの上り坂対策として、同じ道をジョグで帰ったことを河野監督は聞いていた。それを冗談半分で伝えると、小林は躊躇うことなく走り始めた。最後の高地合宿の群馬県横手山でも同様に、かなり負荷の大きいメニューを行った後にすごい上り坂をジョグで帰ったという。