「質的公平性」重視の具体例

7月4日(金)の日テレ「news every.」では参院選の宮城選挙区の立憲民主党の候補者がNHK党の候補の選挙ポスターで「○〇候補と△△との不倫騒動を許すな!」と実名を掲げられたことで名誉を毀損されたと刑事告訴したニュースを報道した。

選挙期間中に2つの政党の候補者同士が“場外乱闘”したといえるケースだ。これも昨年までなら選挙期間中の政党同士のつばぜり合いには関与しないとしてあえてニュースにしなかったケースだといえる。

7月4日のフジ「イット!」でも「質的公平性」を意識する報道があった。参政党の神谷代表が「第一声」の街頭演説で「高齢女性は子どもを産めない」と発言した問題で、参政党公式チャンネルでその動画が視聴できない状態になっていることを「技術的なトラブル」だと釈明したニュース。

「イット!」では参政党のYouTubeチャンネルが演説をライブ配信していて途中から突然カラーバーに切り替わる瞬間の映像を放送し、問題発言の前後の演説や他の場所での演説も放送した。

他局以上に細部にこだわって「ファクトチェック」に挑んだといえる。以前であれば「政党の釈明」を疑い、選挙期間中に確認する作業まではしなかっただろうと考えると、小さな“変化”を確認することができた。

7月8日(火)の日テレ「ストレイトニュース」では「投票前に考える/#政党フカボリ⑤」として、維新の会に焦点を当てて大阪選挙区と神奈川選挙区を取材した。登場した候補者は維新の会の候補のみ。従来ならばそれぞれの選挙区ごとに他の党の候補も全員紹介してそれぞれの選挙区ごとの公平性を守ろうとしたはずだが、あえてそれをしなかった。

あくまでこの日は維新の会という政党の現状を伝えるのが目的だから、と形式的な「量的な公正性」を捨てて、他の党については別の日の紹介することで「質的公平性」を保つことができると判断をしたのだろう。

7月9日(水)のTBS「news 23」ではイギリスのロイター通信やドイツ公共放送など海外の報道機関が日本の参院選をどのような視点で取材しているのかを報道した。出てきた日本の政党関係者は参政党の党首だけ。

ドイツ公共放送のプロデューサーは日本の選挙報道が「公平性を重視しすぎる」と指摘し、ドイツでは当然のように「ファクトチェック」をメディアが実施して報道していると説明したのに刺激を受けたような内容だった。

7月14日(月)のTBS「Nスタ」は参政党の神谷宗幣代表の「外国人」に関する発言が不正確であるとしてファクトチェックした。7月18日(金)の日テレ「news every.」も参政党の公約や書籍に対して、自閉症学会などが(同党が「発達障害などというものはない」としている点などに)抗議したことを取り上げた。

こうした報道は、昨年の衆院選までならば各局が及び腰になってなかなか踏み込めなかったものだ。こんなふうに「質的公平性」に軸足を移した報道をいくつか見ることができた。