悩ましい新たな課題、克服できなかった? “参政党ジレンマ”
今回、テレビ全体の「課題」として残ったのが参政党をどのように報道すればよかったのかという問題だ。
「日本人ファースト」という言葉はストレートに受けとめれば、日本人をすべてにおいて優先させて外国人は二の次にすべきだという意味になる。この言葉を叫ぶことで外国人と日本人を区別し、処遇に差を与える方向性を良しとしてしまう。そんなことになればまず「日本人」かどうかが社会の中で問われることになってしまう。
ではそんな「日本人ファースト」を真っ先に掲げる政党を選挙報道でどう扱えばよかったのだろうか。
今回、参政党は外国人だけでなく、様々な“社会的弱者”を標的にする発言をしていた。「高齢の女性は子どもが産めない」という発言も物議を醸した。男女共同参画にも“行きすぎ”だと異を唱え、終末期医療を受ける高齢患者、発達障害者、LGBTQなど性的少数者なども標的にして彼らに対する差別や誤解につながりかねない発言がたびたびあった。
それに対して少なくない人たちが「本音」で同調する側面があった。なぜだろうか。
世の中が、様々な人たちの「人権」を考慮すべきという方向に急速に大きく舵を切る中で「本当は言ってはいけない本音」が知らず知らずに増えている。それら“人権配慮疲れ”とでもいうべき本音を堂々と語ることで、「よくぞ言ってくれた!」と溜飲を下げ、喝采を叫ぶ人々が少なくない現実がある。
そうした“本音トーク”の一部を大手メディアが危機感をもって伝えれば伝えるほど伝播し、そうした考え方の「宣伝」に手を貸してしまう。ここにジレンマが生まれる。他方でそれが選挙での政治活動として発言されている以上、無視はできない。そうした主張が実際に民意の一部にあることも伝えていく役割が報道機関にはあるからだ。
しかも参政党は参院選の選挙期間中に「国政政党」としての要件も満たし、都議選でも躍進して勢いがある注目政党でもあった。参政党の主張には、詳しく検証すると事実関係についての“間違い”や政策の主張としては戦前の教育勅語を賛美するなどのアナクロ的な“極論”も目につく。それでも少なくない人が「その通りだ!」と日頃感じていることを言語化した面もある。
それらを真正面から批判的に扱うことは、参政党の主張に一瞬でも賛同した人々の自尊感情を否定することにつながって反発を招いてしまう。
さらにファクトチェックは突き詰めれば情報の評価が細かくなりすぎる傾向がある。「正確」「誤り」などわかりやすいものだけでなく、「ミスリード」「根拠不明」「不正確」など、中間的な評価もある。
細かくファクトチェックして「この主張のこの部分は××の点で正確とはいえない」などと補足情報を加えられて評価しても、メディアを利用する側には一種の「ファクトチェック疲れ」のようなストレスを引き起こして、かえってわかりにくい報道に感じさせてしまう。限られた放送時間を考えてみると、ジレンマを克服することは現実的にはなかなかやっかいなのだ。
では各局は実際、この政党をどのように扱ったのかというと、その都度手探りで扱いを変えていた印象で、放送を見る限り各局ごとに統一的なスタンスがあったわけではない。同じ局でも番組ごとに異なるスタンスを示すこともあった。
筆者が見たところ、参政党へのアプローチは以下の4つに分類される。
(A) “客観報道重視型”
伝える側の評価を加えずに言いたいことを言わせるスタンス。
国政政党である相手を尊重して、主張をそのまま伝える。参院選で実際にあった宮城県知事による抗議、発達障害者の団体などからの抗議などネガティブ情報は極力伝えない。今回の参院選ではNHKがこの姿勢だったといえる。
(B) “融和的アプローチ”
伝える側が意見交換を通じて妥協点を探るスタンス。
「話せばわかる」と質疑応答を繰り返して妥協できるポイントを探る姿勢。今回の参院選ではTBS「Nスタ」の井上貴博キャスターが見せたアプローチである。出来るだけ理解を示しながら、神谷代表から次のような発言を引き出している。
「(参政党を支持する人には)極論の人もいる。外国人に出ていってほしいという方も」「でも私たちはそういう党にはしたくはない」「本当の意味での排他主義とか差別主義の人たちは私はものすごく嫌いなので」(7月9日放送のTBS「Nスタ」での井上アナへの返答)
TBS番組で爆笑問題の太田光が見せたのは「相手の土俵にのってみる」という戦略だった。相手が「党首と一部の支持者の主張・行動には乖離がある」というのであれば、党首である神谷氏に「支持者に対して暴走しないよう説得してほしい」と促した。放送時間の制限もあり、必ずしもうまく行ったとは言い難いやりとりになったものの、言葉の上で一定のタガをはめることができたように評価できる。
7月20日(日)のTBS開票特番「選挙の日2025」では番組特別キャスターになった太田光が神谷代表に「憲法改正」問題を問いただし、代表に「私がこれがいいと思うからみんな従え、という考え方はあまりない。憲法を改正しようと言ったけど、みんなで議論した結果、日本国憲法そんなに変わらなかったとなったらそれはそれでいいんですよ」とも言わせている。
ただし、このスタンスでは相手に対して厳しい評価をすることはできない。相手に「まだ我々も議論しながら草案を検討しているところ」などと自らの“未熟さ”や“発展途上”を釈明した場合などにそれを許して逃げ道を与えてしまう面もある。本来、政党が国政選挙で政策を「公約」として訴える以上、“未熟”や“発展途上”を一度許してしまうと際限なく後から約束を改訂できるような“何でもあり“になってしまいかねない。
(C) “是々非々アプローチ”
批判的意見があることも付加しながら伝えていくスタンス。
参院選では日テレ、フジのニュース番組が基本的にこの姿勢だ。7月10日(木)のフジ「イット!」で参政党の“憲法草案”を報道した回などが該当する。教育において「歴史と神話、修身」を必修とすることや「教育勅語」を尊重することなどを詳しく紹介。ネットでの「参政党が取り戻したいのは戦前の政治なのか?」という疑問の声も報道した。
こういう主張をしているという事実に加えて “批判的意見”や“ネガティブ要素”も入れるようにする。その党が抗議を受けた場合にはそうした事実があったことも伝えるアプローチだ。民放の大半のニュース番組はこのスタンスだったといえる。
(D) “権力批判アプローチ”
メディアの役割は権力監視だという考え方から「正しさ」を求めて、真っ向から批判的に扱うスタンス。
7月12日(土)TBS「報道特集」に見られた姿勢だ。同番組では大阪公立大の明戸隆浩准教授が「『日本人ファースト』が、支持層に対して排外主義、ヘイトスピーチを煽る効果があることを、言っている側が分かっていない訳がない」と批判し、広がる排外主義に対して留学生などが恐怖感を覚えて精神的に苦しむ姿を伝えた。
一方、テレビでこうした批判的報道をすると、かえってSNSでの「“偏向する大手メディア”が参政党いじめに走った」といったメディア批判を招きかねない面があるし、実際にそういった反応もあった。
参政党の戦略は一種の“炎上商法”ともいえ、大手メディアが批判すればするほど、SNSでは支持する声が集まるという皮肉な結果につながっていく。“正しさ”を求めようすればするほど逆効果・・・。メディアから見れば、まさに(参政党の)“ジレンマ”なのである。
大別すればこの4つに分かれるが、多くの報道のそれぞれが(A)から(D)までにきっちりと分類されるわけでなくその都度、混ざり合っていたと評価できる。
参政党はその言葉どおり受けとめれば、外国人排斥につながりかねない「日本人ファースト」を標榜するが、結果的に2025年参院選では14議席を獲得した。非改選合わせて参議院で15議席。衆議院で3議席と選挙前以上に存在感を示し、ますます無視することはできなくなった。国政のキャスティングボートを握る存在になっている。
参政党については様々な評価があるが、多くの識者が指摘するように極右の“ポピュリズム政党”であることは間違いないだろう。ポピュリズムだから、一見過激に聞こえる“国家神道への回帰”に似た憲法改正案を掲げながらも「私たちの主張を押しつけるつもりはない。(人々が)議論した末に私たちの意見に賛同しないというなら、それでもいい」などと一見柔軟に聞こえる発言もする。
結果的には「何でもあり」と言わんばかりの“節操のなさ”こそ実は本当に恐ろしい点だ。有権者との「約束」(公約)をきっちり事前に決めることなく、“白紙の委任状”を獲得してしまう。それが実際に相当な数の議席を獲得させ、リアルな政治のパワーを発揮しつつある。
私たちはいま、新しいタイプのファシズムへの移行過程にいると言えるのかもしれない。あるいはこれまでの歴史が経験してきた政治過程とはまったく異なる過程にいるのかもしれない。
これは参政党に限らない。他にも同じように人々の“抑圧された本音”に働きかける新興政党が出現していく可能性は少なくない。それだけにテレビ各局にとって“参政党のジレンマ”をどう克服するかはこれからの選挙報道の流れを決定づける重要な分岐点になっていく。
はたして次の大きな選挙で、テレビは“参政党のジレンマ”を克服する方法を見つけることができるだろうか。2025年参院選報道で積み重ねた議論をもっと進化・深化させ、テレビに何ができるのか、可能性を探ってほしい。
<執筆者略歴>
水島 宏明(みずしま・ひろあき)
1957年生。東京大学法学部卒。
札幌テレビ、日本テレビで報道記者、ロンドン・ベルリン特派員やドキュメンタリーの制作に携わる。生活保護や派遣労働、准看護師、化学物質過敏症、原子力発電の問題などで番組制作をしてきた。
「ネットカフェ難民」という造語が「新語・流行語大賞」のトップ10に。またドキュメンタリー「ネットカフェ難民」で芸術選奨・文部科学大臣賞を受ける。
2012年より法政大学社会学部教授、2016年より上智大学教授、2025年より桜美林大学・目白大学非常勤講師(現職)。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。