繰り返される号令と中国の現実
なぜ、中国共産党はこのような規定を繰り返し出すのでしょうか。実は、同様の内容の通達はこれまでも繰り返し出されてきましたが、一向に改善されないという現実があります。誰もが「おかしい」と疑問に思いながらも、「上を見て仕事をする」という文化は、どこの国でも同じなのかもしれません。
中国では公務員は安定した職業として羨望の対象となっており、だからこそ「自ら襟を正す」必要があるのでしょう。また、習主席が自らを「末端組織に思いを寄せる指導者」としてアピールする狙いもあると考えられます。習近平主席の側近には地方での勤務経験が長い人物が多く、習主席自身も地方勤務が長かったことから、末端の現実をよく理解していると言えます。
また、形式主義は時間や労力だけでなく、お金の無駄にも繋がります。地方政府が見栄を張ってインフラ建設を進め、巨額の資金を浪費する無駄な開発が繰り返されてきました。これもまた、地方都市にはびこる「形式主義」の典型と言えるでしょう。
非効率な現実を是正しようと詳細な指示を出しても、なかなか変わらないのが中国の現実です。しかし、今日話した内容は決して中国だけの話ではありません。私たち自身の周りを見渡しても、形式主義を完全に排除できているかと問われれば、自信を持って「はい」とは言えないでしょう。私もまた、勤務先で「長い文書、長いスピーチ」を戒めていきたいと感じています。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める