2025年5月20日(火)
金沢港の一角で、半世紀にわたり港で働く人々や地元住民の胃袋を満たしてきた
‟魚処 厚生食堂”が、その長い歴史に幕を下ろしました。

入居する建物の取り壊しに伴い、50年という節目で閉店を決めたこの店には、最後の味を求めて、そして別れを惜しんで、多くの人々が詰めかけました。
これは、たくさんの‟ありがとう”と笑顔、そして涙に包まれた食堂の最後の1日の記録です。

午前7時半、最後の朝は静かに始まった

最終営業日の朝。
辺りがまだ静けさに包まれている午前7時半、この道40年の店主・大谷健二さんは、いつもと変わらぬ様子で仕込みを始めていました。

「おはようございます。きょう、最後です。」

淡々と、しかしどこか寂しさをたたえた表情で調理場へ向かう大谷さん。
「いつもと一緒ですよ。全然変わらないです」と語りながらも、閉店を知った客が連日押し寄せたことで「疲れがちょっとたまってるんで…」と本音もこぼれます。

この日、店の前には驚くべき光景が広がっていました。
開店は午前11時にもかかわらず、午前7時から並んでいるという一番乗りの女性客の姿があったのです。

一番乗りの女性客
「きのう来たけど食べられんかった。もう締め切りで。きょうは最後やから、ちょっと早めに来ました」

30年来の常連だという彼女は、思い出の味を噛みしめるように、静かに開店の時を待ちます。
日に日に長くなる行列に、
大谷さんは「なんでこんな早いかな。(前日に)食べられなかったんで、悪いことしたね。」と、申し訳なさそうに、そして少し照れくさそうに笑いました。

店の入口に貼られた閉店のお知らせ