“石破おろし”は広がらず~待ち受けるのは参院選後の政局か~
約30年前、少数与党となった羽田孜内閣は、当時の野党・自民党から提出された内閣不信任案が可決される見通しとなり、わずか在職64日で総辞職した。
では同じく少数与党の石破内閣は今後どうなるのか。
予算案審議途中に石破総理が新人議員に1人10万円相当の商品券を配った問題が発覚したり、高額療養費制度の見直しをめぐって二転三転し、予算案が参院に移った直後に見直し凍結を表明する自体となった。こうした異常事態が重なったが、与党からも野党からも石破総理の退陣を求める“石破おろし”の動きは広がっていない。
与党側では、この危機的状況下で名乗りをあげる人はおらず、「ポスト石破」候補者たちは様子見の状況が続いている。一方の野党側では、夏の参院選は弱体化した石破総理と戦いたいという思惑が垣間見られる。こうした与野党の思惑が交錯する中、“石破おろし”は現状起こらず、政権は持ちこたえている。

仮に石破総理のまま参院選に突入すれば、結果次第で選挙後の政界再編の動きが加速する可能性がある。現在の自公連立政権に新たに野党を加え、過半数の議席を確保し安定政権をめざすかどうか。
今回の予算案をめぐる3党協議で、法案を通すことの難しさを痛感した自民党幹部の一部はすでに参院選後の政局を見据え、“頭の体操”をしているようだ。「連立のパートナーは維新か国民民主か、それとも立憲か」と。
石破総理と総裁選を戦った“ポスト石破”候補の一人、小泉進次郎衆院議員は「今回予算審議で合意した維新に連立を呼びかけるべき」だと主張し、「国民民主と一緒にやっていくのも十分あり得る」とも発言している。
ただ、ある自民党幹部は「財政規律を重視しポピュリズムではない責任をもった政策を打ち出しているのはまだ立憲の方だ。本当に連立交渉しなければいけないのは立憲だ」とも話している。

いま石破総理が直面している最大の課題は、国内の物価高対策とアメリカ・トランプ大統領による追加関税措置への対応だ。とくにトランプ氏との交渉は最終的に石破総理が決着をつけねばならず、交渉の“最前列”にいる日本の対応に世界の目が注がれている。
国民の生活に直結する深刻な問題なだけに結果次第では、石破総理には追い風になり得るし、国益を損なう結果となれば信用を失い、参院選前の“石破おろし”が加速する恐れもある。いまの国会の会期末に野党が結束し内閣不信任案を提出すれば可決されるという環境だ。
90日とされているアメリカとの交渉期間中にどのような結論を出すのか。石破総理の今後の命運が懸かっている。
〈執筆者略歴〉
室井 祐作(むろい・ゆうさく)
2004年、TBS入社。報道局の映像取材部、外信部・バンコク特派員(アジアを中心に20か国以上を取材)、「news23」ディレクター、情報番組プロデューサーなどを担当。政治部では野党キャップ、与党キャップ、石破番記者などを経験。
2021年10月、岸田総理就任時に官邸キャップとして岸田内閣を取材。
2023年2月から政治部デスク(現職)。
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