◆現場に着くと、すでに2人が・・

炭床兵曹長が火葬場から直接、処刑の現場に向かうと、着いたときにはすでに2人の飛行士は斬首されていた。そして三番目の飛行士が柱に縛られているのを見た。飛行士は目隠しをされ、手を後ろに縛られていた。
このあと、「自分はそれがヒゲが生えた飛行士で、高慢で強情だと言われた者だと思った」と書いてある部分に、波線が引かれている。炭床静男本人が、弁護人に「全然言わないのに書かれている」と指摘している部分だ。
現場に到着した炭床兵曹長は、処刑される3人目の飛行士の側へ行った。ただ、好奇心からよく見ようと思った、と書かれている。しかしその後に続く、「そして処刑がよく見えるところに居ようと思った」というところに、また波線が入っている。好奇心はあったが、残虐なシーンを見たかったわけではないということか。
◆「命令はあったか?」聞かれていない問答が調書に

さらに「飛行士の側にまわってから貴方に誰かから仲間に加わるよう命令されたか、又、虐待を命ぜられたか」という質問がされ、「いいえ」と答えたことになっているが、そこには、「こんな問答は全然しておりません」とメモが書き加えられている。
これは「命令がなく、共同謀議である」ということを裏付ける質問であり、捏造された問答ということになるのだろうか。さらに、波線や傍線が入る部分が増えてくる。
「柱に縛られている飛行士を最初に殴ったのは自分です。自分が始終持って歩いている三尺(約90センチ)の杖で彼の右足と上部を二回殴った」というところに傍線があり、「この所は『NO.72』の通りに言ったと思っております」と書かれている。
同じファイルに、「NO.72」の調書もあった。こちらは検事がとった調書のようだが、「飛行士の体格が立派だったので、右の股(膝の上)を軽く二回杖の先で叩いた」と書かれている。
◆酷い暴行はあったのか

このあと、「北田兵曹長が杖を自分の手からひったくって、飛行士の胃のところを三回殴った。最初の一打に飛行士はうなりだした。歯をぎりぎり噛むと同時に、顔に苦しみが現れた。自分は北田兵曹長に酷く殴りすぎると言って、彼の手から杖を取った。それで彼は飛行士の顔を拳固で殴った。その後で、4,5人の兵が続けて拳固で飛行士を殴った。全部で五分位殴るのが続いた後、榎本が『殴るを止め』と命じた」と続く。
この文中、炭床が事実と違うと指摘しているのは、北田が殴ったのは、「胃のところ」ではなく、「へそのところ」だという部分。そして、「飛行士がうなりだし、歯をぎりぎり噛んで苦しんだ」「北田は飛行士の顔を拳固で殴った」という部分は「言っていない」としている。
そして、炭床はこの後、藤中松雄一等兵曹が銃剣で刺したところを見ている。次に成迫上等兵曹が刺した後、榎本中尉が「銃剣術のやり方が正しくない」と言って止め、本番の仕方を実地にして見せた。炭床自身も20人ばかりが突いたところで、命令されて一回突いた。20分ばかりで全部で30人位が突いたと述べている。飛行士は最初の藤中の一撃で絶命したようだった。