物価の見通し
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2026年1月に前年比1.9%と2022年3月以来、3年10ヵ月ぶりの2%割れとなった後、6月まで6ヵ月連続で1%台の伸びとなっている2。消費者物価上昇率鈍化の主因は、既往の原油価格下落に加え、ガソリンの暫定税率廃止、電気・ガス代の支援策などからエネルギー価格が下落していること、2025年夏場以降、食料の上昇率鈍化が続いていることである。食料(生鮮食品を除く)は2025年7月の前年比8.3%をピークに11ヵ月連続で鈍化し、2026年6月には同3.1%となり、この間のコアCPI上昇率を▲1%ポイント以上押し下げた。ただし、消費者物価の川上段階に位置する飲食料品の輸入物価はすでに上昇率が高まっており、今後、川下の消費者物価の食料品に波及することが見込まれる。
また、帝国データバンクの「食品主要195社価格動向調査」(7/31公表)によれば、2026年(1~11月)の飲食料品の値上げ品目数は1万8347品目となり、前年同時期の1万9416品目を下回っている。しかし、中東情勢悪化に伴う原材料価格の高騰を受けて、先行き3ヵ月の値上げ品目数は前年比で増加に転じている。消費者物価の食料(生鮮食品を除く)は、夏場以降は上昇ペースが再び加速することが予想される。

中東情勢の緊迫化を背景に原油価格の高止まりが続く中でも、補助金政策によりエネルギー関連品目の価格は抑制されている。電気、ガス代の支援策は4月でいったん終了したが、7月使用分(消費者物価への反映は8月)から再開されている。支援策は昨年夏場にも実施しているが、補助額は今回の方が大きいため、コアCPI上昇率の押し下げ要因となる。一方、原油価格を中心とした輸入物価の上昇は食料品、日用品など幅広い品目に波及することが見込まれる。
日本銀行の「企業物価指数」によれば、中東情勢の影響を受けた原油価格の上昇や円安の進展を反映し、輸入物価指数は2026年2月の前年比2.7%から7月には同29.1%と上昇ペースが急加速している。また、国内の企業間で取引される財の価格を表す国内企業物価指数も2月の前年比2.1%から7月には同7.1%と伸びを大きく高めた。川上、川中段階では中東情勢の影響を受けた物価の急上昇がすでに顕在化している。

近年は、企業がコスト上昇分を販売価格に転嫁する姿勢が、従来に比べて強まっている。過去の輸入物価上昇局面では、川上から川下に進むにつれて価格転嫁率が低下するため、物価の上昇幅は輸入物価、国内企業物価、消費者物価の順に小さくなるのが一般的であった。これに対し、2023年以降は、国内企業物価や消費者物価への転嫁が進んだことで、川上と川下の物価上昇幅の差が縮小している。特に、国内企業物価と消費者物価はおおむね同程度の上昇となっており、企業の価格設定行動が変化していることを示唆している。
今回の見通しでは、ガソリン、灯油等の支援策は規模を縮小し2027年度まで継続、2026年夏に再開された電気、ガス代の支援策はその後の原油価格の下落を受けて規模は縮小するものの、2027年度まで継続することを前提としている。
コアCPIは、足もとの1%台半ばから2026年度中は上昇率の拡大傾向が続き、2026年秋頃に2%台、2026年度末にかけては3%台まで伸び率が高まることが予想される。2027年4月以降は飲食料品の消費税率引き下げの影響でコアCPI上昇率は▲1.2ポイント程度押し下げられる3。ただし、今回の見通しでは、消費税率引き下げ分の価格転嫁率を70%程度と想定している。

コアCPI上昇率は、消費税率引き下げの影響を除くベースでは2027年度入り後もしばらく3%台が継続した後、原油価格の下落や円高の進展を受けて徐々に伸び率が鈍化し、2027年度末には2%程度になると予想するが、中東情勢の帰趨とそれに伴う原油価格や為替の動向に加えて、政府による物価高対策によっても物価動向が大きく左右されるため、予測の不確実性は極めて高い。
コアCPI上昇率は、2025年度の前年比2.7%の後、2026年度が同2.3%、2027年度が同1.3%(2.5%)、コアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)は2025年度の前年比3.0%の後、2026年度が同2.3%、2027年度が同1.1%(2.4%)と予想する(括弧内は、消費税率引き下げの影響を除くベース)。



(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎)