概要と問題意識

市場やメディアでは「日本の財政状況が悪化しており、円売りの根拠になる」という論調が目立つが、実際の数値やIMF等の経済見通しに照らすと、その見解は客観的事実から乖離している。

実際、日本の財政ポジションを確認すると、一般政府の財政赤字は対GDP比で約1%程度にとどまっており、G7諸国の中でも最小レベルに位置している。実態として日本は「放漫財政」や「通貨乱発」を行っているわけではない。

アベノミクスの振り返りと「歳入増による財政再建」

また、アベノミクスは大規模な景気刺激策であったと語られがちだが、実際には2度にわたる消費税増税(2014年、2019年)を通じて強力な財政引き締めが実施された。実際、アベノミクス当時の家計需要への負荷を確認すると、対GDP比で2.5%ポイント以上の歳入増加が達成された一方で、消費税増税は家計需要を著しく下押す結果となった。こうしたことから、アベノミクスは株価の上昇が強調されがちだが、実質個人消費の観点からは成果を上げたとは言い難いといえよう。

足もとの財政状況と将来見通し

一方、過去10年間にわたる財政再建の結果、25年度の日本のPB赤字はほぼ解消(ゼロ近傍まで縮小)している。内閣府の試算・見通し(26年7月)では税収増に伴うPB黒字化が視野に入っており、成長戦略試算時(26年6月)の赤字予測(約▲7.0兆円)を大幅に上回る進捗を示している。

そして、一般政府ベースでG7諸国との対比をすれば、米国や欧州主要国(フランス、英国等)が大きなフローの赤字を維持・拡大させているのに対し、日本のフローの赤字は極めて抑制されている。こうしたことからすれば、名目成長やインフレが債務動態の改善を助ける限り、一定の減税策や名目金利の上昇を吸収する余力は十分存在するといえよう。

金融政策・為替市場への見解

一方、金融政策運営として、日銀は政策金利の引き上げを慎重・緩やかに進めつつも、相応の量的引き締め(QT)を実行しており、イールドカーブの長短期利回りに影響を与えている。

こうした中、為替介入と市場のポジショニングとして、マクロ系投資家は過度に円ショートへ傾斜していたため、介入等の局面で梯子を外される形となったが、為替介入は弱値圏での円の下値を支える効果を持ち、財政面から見ても外為特会を通じた財政収支の改善にも寄与し得るといえよう。

今後の課題

以上のように、自国の財政収支の改善や構造的プライマリーバランスの実態が金融市場へ正確に伝わっておらず、「コミュニケーション不足」が市場の誤解を生んでいることからすれば、日本政府の発信・コミュニケーション改善が必要な状況といえよう。

また、標準的なIMF型指標に基づく議論も必要であり、構造的PBの変化や財政スタンスなど、グローバル標準の客観的指標を用いて政策効果や対GDP比の債務軌道を冷静に分析・議論することが求められる。

(※情報提供、記事執筆:第一ライフ資産運用経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣)