ベッセント米財務長官による米国の借り入れコスト抑制の試みは、長期金利をわずか1日ほど押し下げたに過ぎなかった。より持続的な市場のシグナルは別にある。ドルが弱含み、金と暗号資産(仮想通貨)ビットコインが上昇し、膨らむ米財政赤字や米経済政策の方向性への懸念を背景に通貨価値の低下を見込む「ディベースメント取引」が一段と強まった。

こうした市場の反応の違いは、より根深い難題を浮き彫りにした。インフレが米連邦準備制度理事会(FRB)の制約となり続ける中でも、米政府は借り入れコストの低下を望んでいる。しかも、政府による大規模な借り入れからAIに流れ込む巨額資金まで、政府と企業が資金を巡って一段と激しく競い合う局面で起きている。

AIブームは、この資金獲得競争の双方に関わっている。AIへの資金供給は債券市場に新たな巨額の資金需要を生む一方、AIで生み出される利益への期待が、資金調達コスト上昇の中でも株価を下支えしている。株式相場が底堅さを示す中、こうした不安の一部は代わりに別の市場に表れている。

ベッセント氏の介入は、金利上昇に対する米政府の許容限度も明らかにした。ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルのチャーリー・マケリゴット氏は、市場の反応によって、そうした圧力の一部がどこに向かっているかが示されたとみる。米当局が長期金利の安定を図る中、金が上昇しドルが下落、ビットコインも値上がりした動きを「圧力解放弁」と表現した。

レイ・ダリオ氏は21日、この取引をより深刻に捉え、米国が債務危機に陥る可能性への備えとして、投資家に債券投資を減らし、金と一部のビットコインを保有するよう促した。

21日時点でも、市場が発するシグナルにはばらつきが残った。米企業活動が4年余りで最も速いペースで拡大したことを受けて株価は持ち直し、米長期国債は週間ではほぼ変わらずとなった。一方、ビットコインは7万7000ドル前後で推移し、金は3カ月ぶりの高値に上昇した。

米財務省が期間10年-30年の米国債の一部について買い戻し規模を少なくとも2倍にすると発表した後、ベッセント氏はCNBCに、市場は「少し先走っていた」と述べ、財務省には「豊富な政策手段」があると強調した。

問題は、ファンダメンタルズが逆方向に働いていることだ。

米政府の財政赤字は2兆ドル(約318兆円)近くに上り、原油高がインフレリスクを高めている。世界各国の政府も防衛、エネルギー、社会保障支出のため借り入れを増やしている。一方、企業はAI、データセンター、半導体、電力向けに調達する資金を増やしている。

英バークレイズのストラテジストは、社債発行の増加、とりわけAI投資資金を調達するハイパースケーラー(大規模データセンター事業者)による発行が長期金利への上昇圧力を強めていると指摘する。つまり、米財務省は市場に供給する国債の年限構成を変えることはできても、資金需要そのものをなくすことはできない。

JPモルガン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、プリヤ・ミスラ氏は「株式はより高い割引率を織り込まなければならない」と指摘。「防衛やエネルギー安全保障、社会保障制度の財源を賄う政府から、AIエコシステム全体の資金需要に至るまで世界規模の資金獲得競争が起きている」との見方を示した。

20日には、ベッセント氏がAI関連の借り入れが米国債利回りに及ぼす影響にいら立ちを示す場面もあった。同氏はCNBCに、こうした企業の債券発行戦略は「利回りにほとんど左右されない。AIインフラ整備から得られるリターンが極めて高くなると企業は考えているからだ。実際、どれだけの金利を払うかをあまり気にしていない」と語った。

しかし、ベッセント氏の発言で借り入れコスト上昇に対する米政府の敏感さが明らかになった一方、投資家が直面するのは、そもそも利回りを押し上げてきたのと本質的に同じ要因だった。

マニュライフ・インベストメント・マネジメントのシニア・ポートフォリオマネジャー、ネイサン・スフト氏は「財務省は流動性や市場心理に影響を及ぼすことはできるが、成長、インフレ、財政赤字、供給といった要因を持続的に抑え込むことはできない」と述べた。

原題:Bessent’s Bond Maneuvers Giving Global Debasement Trade New Life(抜粋)

--取材協力:Sidhartha Shukla、Ye Xie、William Selway.

More stories like this are available on bloomberg.com

©2026 Bloomberg L.P.