「ムーンスウォッチ」のヒットは“例外”
しかし、スウォッチグループは黙って苦境に甘んじているわけではありません。
2022年、同社は「ムーンスウォッチ」という、オメガの主力モデルである「スピードマスター」の廉価版を発売し、大きな話題を呼びました。
月面着陸に着用されたことで知られる伝説的な時計を、安価なスウォッチで再現したこの製品は、当初の予想をはるかに上回る大ヒットとなりました。
この成功は、スウォッチグループが持つ強力なブランド力と、オメガという資産を巧みに活用する手腕があることを証明しました。
しかし、問題なのは、この成功が例外だったことです。

スウォッチは、ムーンスウォッチのような、若者を惹きつけ、熱狂的なムーブメントを生み出すような製品を継続的に生み出せていません。
適切なインフルエンサーの起用や話題作りにも欠け、かつての勢いを失っています。
その一因として、多くの店舗を自社で運営していることが挙げられます。
自社店舗が多いため、他社製品を扱う小売業者に商品をアピールする必要がなく、結果として時計業界全体から孤立しがちになっているのです。
スウォッチグループには、今なお揺るぎないブランド力と豊かな伝統があります。
しかし、現代において時計を売るには、ただ精巧で美しいだけでは不十分です。
時計作りは「イメージ」が重要であり、人々が憧れ、欲しくなるような「物語」が必要不可欠なのです。
市場の変化、国際的な貿易問題、そして経営陣への不満。
スウォッチグループは、かつて業界を救った時とは異なる、より複雑で深刻な試練に直面しています。
果たして、スウォッチは再び人々の心を掴み、栄光の時を取り戻すことができるのでしょうか。
