中央銀行とドルの信認を脅かす
トランプ大統領は、経済成長よりも、貿易赤字を解消することを優先課題に設定している。貿易赤字解消のため、いずれはドル安の政策誘導をしたくなるに違いない。トランプ大統領の政策がスティーブ・ミラン論文(2024年11月)を下敷きにしていることは、すでに知られている事実だ。ミラン論文からは、いずれトランプ大統領がFRBに圧力をかけることがだいたい想像ができていた。
理屈としては、米国が各国に関税をかけると、輸入が減って貿易収支が改善する。その一方で、米国には輸入物価上昇=インフレ圧力が生じる。インフレによって、長期金利上昇・ドル高圧力が生じてくる。このドル高をオフセットしようというのがミラン論文で描かれた諸施策だ。金融市場では、プラザ合意2.0とか、マール・ア・ラーゴ合意などとささやかれている。だから、ドル高是正に向けてFRBをコントロールしようと動くことは何となく読めていた。FRBには、ドル安誘導のために追加利下げをしたり、長期国債を買い入れて金利低下を促すという対応が求められてくる。しかし、それを本格的に実行するためには中央銀行の独立性が邪魔になる。今、起こっている摩擦は、トランプ大統領がFRBを意のままに動かしたいという政治的願望に根ざしているのだ。
またその先に待ち受けるリスクは、米国が協調利下げでドル安誘導できない分、単独のドル安誘導を試みようとするリスクだ。既存の米国債を100年国債に交換しようという試みだ。海外の中央銀行を相手にそうした交換を促すというアイデアが待ち構えている。100年国債は、割引債で利払いの必要がないが、これを実行すると米国債がデフォルトとみなされる懸念もあると筆者はみる。先々、トランプ大統領は米国債の格付けを巡って、格付け機関などと対立するのではないか。ムーディーズは、米国債の格付け見通しを2023年11月にネガティブに引き下げた。債務上限問題を巡る政治的混乱が理由だ。奇策を弄すれば、いずれ弊害が表れる。そもそもトランプ関税というのも、世界経済を混乱させる奇策だ。それがドルの信認を脅かしている。