米国の株価・債券が売られ、ドル自体が安くなるトリプル安が生じている。もはやトランプ政策は、市場からアンチ・ビジネスだとみられている。特に、FRBのパウエル議長を批判し、中央銀行の独立性を脅かそうとする言動は、ドル売りを巻き起こしている。ここには、歴史的教訓を顧みないトランプ大統領の姿勢が映し出されていると思う。

市場は不安定を嫌う

米国金融市場は、株安・債券安・ドル安という最悪の反応を示している。トランプ大統領が、FRBのパウエル議長を非難し、利下げ要求をしているからだ。18日には、ホワイトハウス高官がパウエル議長の解任を検討していると報じられた。FRBの議長は1935年の最高裁判決で、大統領と言えども簡単に解任できないことになっている。弁護士出身のパウエル議長はそうした点は十分に承知しているはずだ。だから、たとえ辞任を迫ったりしてもそれは実現できず、結局は利下げをしにくくなるだけだ。パウエル議長は、大統領に屈したという印象をみせたくないだろうから、当面、利下げを選択しないだろう。株価には極めて不利な状況だ。

通常、株価が下がるとき、安全資産として債券が買われる。しかし、トランプ関税はインフレを引き起こす要因であるから、インフレ懸念が投資家に債券購入を躊躇させている。景気が悪化して、物価が上がるスタグフレーションが懸念される状況だ。米国の政策は手詰まりになって、米国の中長期的な成長見通しも低下して、ドル安要因になる。実質金利低下は債券投資を手控えさせて、ドルのインフレ減価という見方もできる。さらに言えば、金融市場はこうした不安定を嫌い、ドル資産を敬遠して「トリプル安」が起こってしまう。小国ではなく、大国でトリプル安が生じることは珍しい。ドルはもはや安全資産ではなく、危険資産として敬遠されて、その代わりに金(きん)が選好されているのかもしれない。金価格が4月上旬から急上昇しているのは、ドルの代替資産として選ばれている証拠だろう。もはやトランプ政策は、アンチ・ビジネス色を強めて、マーケットから激しく失望されているのだ。