「今」を撮りたいと自腹で買った70万円のカメラ
監督である筆者は、現在のテレビ制作会社に入って以来、情報番組が中心でドキュメンタリーは初めての経験。まずぶちあたった壁は、予算の問題だった。
テレビ業界にも当然ながら予算がある。
どの番組で、どんな取材をし、いつ放送するか企画が通らなければ、取材に必要な経費は出ない。でも、OA番組が決まるのを待っていては、森且行の「今」を撮り逃してしまう。同じ会社に所属しディレクターでもある夫に、半ば決定事項のように自腹でカメラを買うことを相談した。
「惚れた男ができて。追いかけたくて。だからカメラ買う」
「えっ、いくら?」
「映画用の高性能カメラ…70万円くらい、かな」
だまってうなずく夫を、撮影スタッフにも組み込んだ。
取材対象者と信頼関係を築き、絶妙な距離間を保てなければ、素の表情や本音を引き出すことはできない。
夫同伴で、打ち合わせと称した飲み会、カラオケ、彼の親戚宅への1泊2日旅行に行ったこともあった。
私がレース場で彼を追っている間、夫は自宅でレース観戦する彼の兄の元へ。
夫が双子のお笑いコンビ「ザ・たっち」に似ているからと、酒を飲んでは、夫と彼の50代コンビが謎の「幽体離脱~」「アジのひらき~」「ちょっと!!ちょっと、ちょっと!!」といったコントを繰り広げる。
夫と共に撮影することで気づかされたこともあった。