この時だけは、五十嵐は特捜部長自ら、となりの東京地裁に出向いて逮捕令状の交付を受けることにした。しかし、事務官と一緒に行くことは避けた。
「あらかじめ特捜部の事務官に記録を持たせて裁判所の令状部に行ってもらい、そのあと私が一人で手ぶらで裁判所に入った。同じ裁判所の2階にある司法記者クラブのメンバーに出くわしたときの用心だった」(五十嵐元特捜部長)
そして午後6時すぎ、主任検事の取り調べに対して、すでに脱税容疑を認めていた金丸を「キャピトル東急」から東京地検に連行し、逮捕した。そして、東京拘置所に移送した。

話は戻るが、3月5日から出張で東京を離れた検事長は3月6日、予定通りゴルフを続け、出張先で「金丸逮捕」を知ることになった。
この件について、後日、検事長は特捜部や東京地検検事正に対して、何も言わなかったという。金丸があれほど巨額のヤミ献金を、隠していたという事実の前には、文句の付けようがなかったのであろう。
特捜部は報道各社だけでなく、身内の検察首脳である検事長までも出し抜いていたのであった。
TBSテレビ情報制作局兼報道局
「THE TIME,」プロデューサー
岩花 光
◆参考文献
立石勝規「東京国税局査察部」岩波書店(1999)
村山治「検察vs政界 経済事件記者の備忘録」日刊現代DIGITAL(2023)
<全10回( #1 / #2 / #3 / #4 / #5 / #6 / #7 / #8 / #9 / #10 )敬称略>