◆病気でもしたら申し訳ない

米軍が管理するスガモプリズンの死刑囚の部屋は2畳の広さで、この当時ではまだ珍しい「水洗便所」と洗面台がついていた。また、病気になれば治療を受けることも出来た。
<藤中松雄が兄に宛てた手紙 1949年9月27日付>※一部現代風に書き換え
私も相変わらず元気と言いたいのは山々ですが、来る日も来る日も座っているからか一週間ばかり前から痔が悪く、毎日治療を受け、薬をつけております。今日頃はお陰様で大変良く、あと十日程も経てば完全に治るのではないかと思われます。それ以外、別状なく心配には決して及びません。いろんな事を考えていると、自分の体であって自分の体でない此の身、父母や神佛によって生かされて来た此の体、病気でもしたならば申訳ない。最後の日までは健康でありたいと念願し、狭い独房ではありますが、朝夕必ず運動をし、終われば窓部に立ちて、新鮮な空気を吸い、最善の注意をはらって来たのでありますが、ついに痔病にかかり申し訳なく残念に思っております。しかし、これからは痔の全快に主力を注ぎ、日常生活、あるいは食物に許される限りの注意をはらうつもりです。たとえ、痔は悪くとも静かにお念佛一途の暮らしをさせて頂いておりますゆえ、どうかご安心下さい。