『イントレランス』が与えた巨大な影響

1916年の映画『イントレランス』は、何がすごいのか。
まず、15分程度の短いものが多かった映画草創期に、2時間半を超える大作であり、4つの物語が同時並行で進むという複雑な物語構成をグリフィスは発案しています。

映画『イントレランス』の巨大なセット

次に、壮大なスケールです。古代バビロンのセットは、城壁の高さが約45メートルもあり、上を馬車が走れます。セット全体の奥行きは1キロもあり、エキストラの人数は万単位でした。

また、映像の編集が画期的でした。巨大なバビロン宮殿を、カメラは高い視点から俯瞰していますが。カメラは次第に高さを下げて、宮殿で踊っている舞姫たちをアップで映し出します。観客は「いったい、どうやって撮っているのか」と驚きました。映像の世界では今でも、カメラを据える高い足場を「イントラ」と呼んでいます。

現代アメリカ編では、えん罪の証拠をつかんだ恋人の女性(メエ・マーシュ)が、汽車に乗っている市長を車で追いかけます。カメラは前から走る車を映したあと、次のカットでは爆走する車を後ろから撮影、交互に組み合わせることで疾走感と緊迫感を高めます。「カットバック」と呼ばれる手法です。そして、死刑執行は直前で回避されます。はらはらし通しの末に、スカッとするラストが最後の1分で展開される――「ラスト・ミニッツ・レスキュー」は、100年後のアクション映画でもよく見られますが、この映画が最初です。

監督のグリフィスは、前年に『国民の創生』という映画を製作していました。南部生まれのグリフィスは、白人差別主義者団体クー・クラックス・クラン(KKK)を無批判に採り上げていました。『国民の創生』は大ヒットしましたが、グリフィスには差別主義者という批判も付きまといました。映画研究者の中には、グリフィスが『イントレランス』を製作したのは贖罪の意識があった、とみる人もいます。