映画史上に残る名画から構成を借用する

私が描こうとしていたのは、現代日本の不寛容です。『イントレランス』の公開が、やまゆり園事件の発生(2016年)からちょうど100年前だったことも、何かの縁を感じました。

ラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』(2019年3月)を映像化するにあたり、映画史に残るこの名画『イントレランス』から私はテーマと構成と借用することにしました。声の魅力を最大限に引きだしたラジオドキュメンタリーと、映像ドキュメンタリーでは、構成や流れ、テンポが違うのが当然だからです。

構想では、番組の冒頭でまず名画『イントレランス』を紹介します。人々の「不寛容」がいつの時代も悲劇をもたらしてきたと明示し、やまゆり園事件に入ります。そして、「揺りかごを揺らす女」を引用すると、番組はヘイトスピーチの現場に飛ぶ――。つまり、名画の構成と同様に、「リリアンの揺りかご」を間に挟んで、現代日本の様々な不寛容を同時並行で構成してみよう、と考えたのです。

100年という時間スケールは、人の一生を超えてしまうほどの長さです。人が愚かな言動を繰り返すのは、100年もたてば社会が歴史の記憶を簡単に忘れ去ってしまう習性もあるからだと思います。

100年を生きたリリアン・ギッシュ(写真提供:ゲッティ)

しかし、歴史の中では100年なんて一瞬だ、と言うこともできます。1893年生まれリリアン・ギッシュは、1993年まで生きます。87歳のリリアンが主演を演じた映画『八月の鯨』を私が観たのは、まだ大学生の時でした。はるか昔のリリアンの存在は、現代にもつながっているのです。人間にとって100年という時の“長さ”と、歴史の中での裏腹な“短さ”を考えることが、映画『リリアンの揺りかご』の隠れたテーマでもあります。

神戸金史(RKB毎日放送)