民主主義の礎にもなる「第3の時間(自由時間)」の発明

なぜ、デンマークでは残業をせず16時に帰る働き方が実践できるのか。井上氏はその謎を解き明かすため、現地にある労働者博物館を取材した。そこで掲げられていたのが「8-8-8(8時間は労働、8時間は自由時間、8時間は休息)」という19世紀末の労働運動のスローガンだった。

当時の館長から言われた言葉が、井上氏の価値観を180度覆す。

「『この8-8-8の中で実は大事なのは労働の8時間じゃなくて、真ん中の自由時間が肝なんだ』と言われました。仕事をして休息(回復)してまた翌日働くという往復ではなく、仕事でもない、休息でもない、自由にものを考える個人を作る『自由時間』。その時間こそが、民主主義の大事な礎にもなるという考え方です」

日本人の多くが考えるワークライフバランスは「仕事」と「最低限の休息」の2つに圧迫されがちだが、デンマーク人にとって「自由時間」は絶対に侵してはならない聖域(第3の時間)として確保されている。この時間が確保されているからこそ、選挙期間中の夕方以降に候補者の討論会を自発的に聞きに行くといった、主体的な個人が育まれるのだ。

「三遊間のボール」を拾わないことが生産性を高める

週37時間労働という限られた時間の中で結果を出すため、デンマークの組織や個人のマインドセットは非常に徹底している。日本企業で重宝されがちな「担当が決まっていないけれど、放置すると問題になりそうな仕事(三遊間のボール)」を、デンマークの労働者はあえて拾わない。

「そういう三遊間を抜ける球がたくさんあるんだったら、そこに一人置かないといけなくて、それは会社の仕事なんです。『自分の求められているエリアの中で37時間で収めるのがあなたの仕事』ということ。時間をかけることよりも、価値を出す方が難しいと思っているからなんですよ。長く会社にいるといった『やっている感(プレゼンティズム)』には全く意味を見出さない」

厳しい成果主義と「クビになり得る緊張感」があるからこそ、一人ひとりが自分の職務に集中し、高い生産性を生み出している。