【記事の要旨】
・現代技術に不可欠なレアアースの生産・加工の約9割を中国が独占
・米中の貿易戦争を機に、米国や豪州などで脱中国の供給網構築が加速
・完全な脱却には時間を要するも、各国での商業生産開始が勝利への一歩
中国のレアアース独占を打ち破れ。世界各国が挑むサプライチェーン再構築の最前線
見た目は大した物には見えないかもしれませんが、今、世界中が中国の背中を追い、これを巡って熾烈な争奪戦を繰り広げています。現代社会のテクノロジーを動かす心臓部、『レアアース(希土類)』です。

レアアースとは、化学的性質が非常に似た17種類の金属元素の総称です。スマートフォン、風力発電機、電気自動車、そしてミサイルに至るまで、あらゆる技術に使われています。特に、機械を小型化・軽量化し、よりパワフルにする「高性能磁石(永久磁石)」を作るためには欠かせない存在です。
しかし現状、世界中の機器に使われるレアアースの8割から9割が中国で生産・加工されています。中国はレアアースを所有し、加工し、精製を行い、さらには販売まで手がけており、サプライチェーン全体が北京を中心に構築されています。世界のハイテク経済は、実質的に中国一国に依存しているのです。

武器としてのレアアースと露呈した西側諸国の脆弱性
中国は、この圧倒的な優位性を地政学的な交渉材料として利用しています。2025年4月、アメリカのトランプ大統領が中国からの輸入品に巨額の関税を課し、貿易戦争が再燃した際、中国はレアアースの輸出規制という強力な武器で反撃に出ました。これを受け、デトロイトの自動車メーカー幹部たちは「永久磁石をアメリカに輸入できなければ、工場を閉鎖せざるを得ない」とトランプ大統領に訴え、西側の製造業がいかに中国に依存しているかが露呈しました。

中国がその優位性を行使したのはこれが初めてではありません。2010年にも領土問題を理由に日本への輸出を制限し、自動車産業などに不可欠な磁石の原料を止めました。数週間で終わったものの、日本の脆弱性を露呈させ、中国の影響力の大きさを世界に知らしめたのです。

なぜ中国に依存したのか 環境負荷とコストの壁
少し時間を巻き戻してみましょう。1950年代から80年代にかけては、アメリカがレアアース分野の最大手でした。しかし、中国政府はレアアースを戦略産業と位置づけ、驚くべき速さで追いつきました。かつての最高指導者・鄧小平氏が「中東には石油があるが、中国にはレアアースがある」という言葉を残した通り、国を挙げて生産体制を確立したのです。
レアアースのサプライチェーンにおいて、採掘は始まりに過ぎません。肝心なのは、各元素を分離・精製して磁石の原料にする「化学工程」です。この工程は生産コストが膨大なうえ、放射性物質を含む有毒廃棄物が大量に発生するなど、環境への負荷が非常に大きいという問題があります。

利益の少なさや人件費の高騰、そして汚染を伴う工程が原因で、西側諸国の多くの業者は市場から撤退しました。消費者は中国から安価で安定した磁石を長年供給されたため現状に満足し、結果として中国が精製工程と加工工程の約9割を支配することになったのです。