「売り場」が商品の意味を決定してしまう

一方で、THE DAYには、実際の飲用シーンとの接続という点で難しさも存在する。特に大きいのが、480mlという缶容量と飲用シーンの設計である。現在、前述した通り缶入りのミネラルウォーター自体は市場に存在しているものの、その多くは蓋付きであり、なにより持ち運びや再封を前提としたペットボトル形式が主流である。その中で、蓋のない480ml缶を一般消費者がどのような場面で飲み切るのかはやや不透明である。

ここで比較対象となるのが、前述したLiquid Deathである。Liquid Deathは、水そのものを飲みたいから選ばれているというよりも、特定の場面に適した“見た目”を持つ飲料として消費されている側面が強い。実際に筆者がアメリカの小売店で調査した際も、多くの店舗で水売り場ではなく、ビール売り場に陳列されていた。これは同商品が、「水カテゴリーの商品」としてではなく、ビールやエナジードリンクが消費される文脈の中で選ばれていることを示している。

つまりLiquid Deathは、酒やエナジードリンクの機能的価値を代替しているわけではない。アルコールによる酩酊感や、カフェインによる覚醒作用を提供しているわけではなく、あくまで「その場にいても浮かない」「場の雰囲気を壊さない」という視覚的・記号的役割を代替しているに過ぎないのである。ビール缶のような見た目、エナジードリンク風のデザインによって、その場のコードに適応しているのである。

Liquid Deathの構造から考えると、THE DAYもまた、既存の“気分を上げる飲料”の文脈へ接続しようとしている商品として捉えることができる。つまり、その特徴は単に“水を缶に入れたこと”にあるのではない。重要なのは、「ただの水では気分は上がらないが、この缶だから気分が上がる」という点にある。つまり消費者が求めているのは水分補給ではなく、“高揚感を演出するための装置”としての飲料なのである。

さらに、「気分を上げたい時に飲む」という飲用機会が比較的明確である点も重要である。これは単なる日常水ではなく、「これから気分を上げたい」「場に入り込みたい」「テンションを切り替えたい」という場面で選ばれる可能性を持っている。この視点から見ると、THE DAYが本来狙うべきなのは、水市場そのものではなく、現在すでに存在している“飲んで気分を上げる飲料”の代替ポジションであると考えられる。例えば、酒、エナジードリンク、クラフト飲料、さらにはカフェドリンクなど、人々が「覚醒」「高揚」「場への参加」を求めて飲んでいるカテゴリーである。実際、ロッテ自身もソバーキュリアスへの対応、すなわち「酒の場における代替飲料」という文脈を意識して展開している。

しかし、ここで大きなネックとなるのが、前述した480mlという缶サイズである。比較対象となるLiquid Deathは568ml缶と比較的大容量だが、アメリカではビールやエナジードリンクも500ml前後のサイズで販売されることが一般的であり、その売り場に並んでいてもサイズ感に違和感がない。つまりLiquid Deathは、ビールやエナジードリンクの売り場文脈に自然に入り込むことができている。

一方、日本市場では事情が異なる。国内のビールは350ml缶が主流であり、比較的大型のエナジードリンクであるモンスターでも355ml、レッドブルに至っては250mlである。さらにコンビニでは、酒類とノンアル飲料は別の棚に分けられており、エナジードリンクもレジ付近の専用冷蔵庫や飲料棚上段など、小型缶を前提とした売り場構成になっている。

では、THE DAYはどこに置かれているのか。筆者が実際に10店舗ほど確認したところ、すべての店舗でファンタなど炭酸飲料の隣に陳列されていた。水売り場ですらないのである。この配置は、THE DAYの価値提案と売り場文脈が噛み合っていないと思われる。仮に水売り場に置かれた場合、THE DAYは160円前後で販売される一方、通常のペットボトル水は100円前後であり、価格差によって割高感が強く出てしまう。その結果、SNS映えや話題性、新奇性といった“リキッド消費”の対象として一時的に興味を惹くことはできても、その文脈が薄れた後は、「高い水」として価格競争に巻き込まれやすいのである。

このように、エナジードリンクや酒類売り場にも置かれていないため、「代替飲料」として認識される機会も生まれにくい。ジュース棚に置かれることで、水を買おうとする消費者の選択肢からは外れやすく、意識的に探さない限り手に取られにくいのである。結果として、「記号的価値を持つ水」としてのポジションを打ち出しながら、その記号が機能する売り場文脈に入り込めていないという矛盾が生じている。ある意味「売り場」が商品の意味を決定してしまう、ともいえるのかもしれない。

さらに、缶という形態自体にも課題がある。アルミ缶はペットボトルより熱伝導率が高く、結露しやすい。近年はレジ袋を使わず、エコバッグやカバンにそのまま飲料を入れる消費者も多いが、缶飲料は結露によって荷物を濡らしやすい。そのため、購入場面や持ち運びシーンを選びやすく、なにより再封ができないため日常的な携行飲料としては不便さも残る。つまりTHE DAYは、記号的価値によって水を再定義しようとしている一方で、その価値が機能する場や売り場、さらには携行環境との接続が十分に設計されていない可能性があるのである。