WTI原油先物価格の80ドル超は警戒感が高まりやすい

7月20日の米国株式市場は、米国とイランの対立激化が続く中、軟調な展開となった。

この日はイエメンの親イラン武装組織フーシが「サウジアラビアに対して海上封鎖を発表したと伝わった」(NQN)ことやトランプ大統領が「米兵に犠牲者が生じるたびにイランにその何倍もの代償を支払わせると自身のSNSに投稿した」(同)ことなどにより、WTI原油先物価格が上昇し、83.23ドルとなった(前日比+0.9%)。

原油価格は90~110ドル程度の推移となっていた5月と比べると低水準だが、6月下旬には70ドルを下回る推移となっていたことを考えると、上昇ペースが速い。

6月に米国とイランが停戦合意した際、WTI原油先物価格はイラン情勢が悪化する前の70ドル割れの水準までは低下せず、80ドル程度の推移になるという見方が多かった。現在の水準は想定よりも高くなってきたと捉える向きが多いとみられ、実質賃金の低迷によって個人消費の見通しが下方修正されたり、FRBの利上げへの警戒感が高まったりするだろう。

3月にイラン情勢が悪化した際には、景気減速とインフレ高進が警戒される中でAI・半導体関連株が投資資金の逃避先となった。この日もSOX指数が反発するなど、同様の傾向がみられた。

しかし、現在はAI・半導体関連株には高値警戒感が強い。

懸念が強まることでAI・半導体関連株に資金が集中し、株式市場全体はかえって上昇するという期待は難しい。イラン情勢の悪化や、インフレ懸念の再燃は、株式市場全体にネガティブな影響を与える公算である。

原油高によって利上げ観測が高まる

7月20日の米国債券市場では、中東情勢悪化への警戒から原油価格が上昇したことを受け、軟調な展開だった。

長期金利は前日比+4.4bp、2年金利は同+3.0bpと、小幅に上昇した。原油高による短期的なインフレ懸念がFRBの利上げ観測を強めている模様であり、FF金利先物市場では9月までの利上げ確率が72.1%に達した(前営業日は68.1%)。26年中の利上げ回数の織り込みは約1.36回となり(同約1.26回)、警戒感が強くなってきた。

もっとも、この日は長期実質金利が前日差+3.4bpとなった一方で、10年BEIは同+1.1bpと小幅な上昇にとどまった。10年BEIは2.26%と、イラン情勢の悪化前の2月末と同水準であり、長期のインフレ懸念にはつながっていない。

FRBが断続的に利上げを実施するという見方は生じにくい。利上げがあったとしても、短期的なインフレ高進に対応した1回の利上げにとどまると予想される。長期金利の上昇余地は大きくないと、筆者はみている。

支持率低下後の高市政権のスタンスは読みにくく、市場は神経質な展開へ

週末に実施された2つの世論調査(毎日新聞、朝日新聞)の結果は、高市政権にとって厳しい結果となった。

毎日新聞の調査(18、19日実施)では、高市内閣の支持率は「6月20、21日実施の前回調査(51%)から10ポイント減の41%に下落」「50%を割り込むのは初めてで、発足以来最低となる。不支持率は前回調査(35%)から9ポイント増の44%で、支持率を逆転した」とされた。

不支持率が支持率を逆転したことで、注目度は高くなるだろう。

朝日新聞の調査(18、19日実施)も「内閣の支持率は53%で、6月調査の60%から下落した。昨年10月の内閣発足後、60%台を維持してきたが、初めて50%台になった。不支持率は35%で、6月の27%から上昇した」と、毎日新聞の調査と同じような傾向だった。

高市首相は派閥に所属していなかったこともあり、高市政権の党内基盤は強くないと言われている。高い支持率が高市政権の求心力の源泉となってきたことから、市場参加者としては支持率低下によって政権運営のスタンスが変わってくる可能性に注意が必要だろう。

むろん、皇室典範の改正が「内閣の支持・不支持模様に影響を与えた一因となった」(朝日新聞)という分析があるように、今国会が終われば関連する批判は弱くなっていく可能性があるため、高市政権は時間を使いながら8月から9月と見込まれている内閣改造・党役員人事によって勢いを回復させる算段だろう。

もっとも、今回の世論調査では皇室典範の改正に関する設問が多かったことから、皇室典範の改正が影響したという分析になっている可能性には留意が必要である。

改正の議論が十分でないという世論は少なくないようだが、そもそも国民生活とはあまり関係のない皇室典範の改正や議員定数の削減といった問題に議論が集中していることが、国民の支持を十分に得られていない背景となっている可能性もあるだろう。

そのように考えると、足元の支持率低下が8月上旬をめどに方針が決定される見込みとなっている食料品の消費税率引き下げの判断にも影響を与える可能性がある。現状では、「飲食料品の消費税減税を巡り、自民党の要職経験者から慎重論が上がり始めた。

財源が不透明な上、2月の衆院選の自民党公約に盛り込む際、党内で十分議論を尽くしていないためだ」「異論が相次ぐ事態となれば難しい党内手続きの調整を迫られる」(共同通信)という状況で、高市首相が独断で減税案を強行すれば、党内の高市批判を強めるリスクがある。

しかし、高市首相が指導力を発揮することで世論の支持を得ようと考えるのであれば、減税案を強行する可能性は十分にある。一段の支持率低下を避けるためには、岩盤支持層の期待に応える必要があると言え、積極財政や緩和的な金融政策を強調することが得策である面もある。

このように考えると、微妙な情勢になっている食料品の消費税率引き下げの判断や、金融政策や為替動向への高市政権のスタンスには不透明感が強くなってきたと言わざるを得ない。円金利や円相場は神経質な推移となるだろう。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)