「モノを買う」という行為の意味は大きく変化している。かつて消費は、商品が持つ機能や性能を満たすための行為として理解されてきた。しかし現在では、商品そのものの使用価値以上に、「その商品を持つことでどのような自分になれるか」「どのような場に参加できるか」といった、記号的・情緒的価値が重視される場面が増えている。

その象徴のひとつが、ロッテが展開する缶入りウォーターブランド「THE DAY」である。本商品は、水そのものの機能ではなく、「気持ちアガル水」という情緒的価値を前面に押し出している。また、アメリカ発のLiquid Deathは、THE DAY同様に水でありながら酒やエナジードリンクの文化的記号を借用する商品として市場を拡大し、飲料は単なる水分補給ではなく、自己演出や場への適応を支える装置として機能している。

本稿では、このような消費行動を「プロップス消費(消費のプロップス化)」として捉え、モノやサービスがどのように自己表現や社会的役割の演出に利用されているのかを考察する。さらに、THE DAYやLiquid Deathの事例を通じて、現代の消費が「何を消費するか」ではなく、「その商品によってどのような自分を成立させるか」へと変化している実態について論じる。

プロップス消費の定義…商品そのものの機能や使用価値ではなく、その商品を消費することで自分がどのように見えるか、どのような存在として振る舞えるかというイメージを自己に付与することを目的とした消費行動

プロップス消費の本質…代替対象となる商品の機能的価値そのものを代替しているわけではない。そのため、同様の役割や雰囲気、自己像を演出できる別の商品が現れれば、容易に置き換えられてしまう。また、その価値は「その商品を持つことで成立する演出」に依存しているため、演出や自己表現が完了した瞬間に急速に価値が低下するという、脆弱で非持続的な側面も併せ持っている。

「気持ちがアガる」といった情緒的価値

株式会社ロッテは、ウエルネス事業の新たな取り組みとして、2025年9月16日に飲料ブランド「THE DAY」を立ち上げ、「ナチュラルミネラルウォーター」と「スパークリングウォーター」を発売した。THE DAYは、“最高の一日”を意味する言葉に由来し、日常の中の特別な瞬間を演出する“気持ちアガル水”をコンセプトとしている。仕事や勉強、仲間との時間など、自分にとっての「最高の一日」に寄り添う商品として展開される。また、ゴールドカラーの缶デザインを採用し、水や炭酸水でも気分が高まる新感覚のドリンクとして提案している。今まではドン・キホーテなどで先行販売していたが、首都圏のセブン-イレブンで2026年5月5日に発売し、それを機に大々的なプロモーションが開始されている。

国内のミネラルウォーター類市場は、富士経済の調査によると約4,500億円規模に達している。また、日本ミネラルウォーター協会によれば、2024年の国内生産量は前年比4.1%増となっており、今後も成長が期待される市場である。また、渋谷トレンドリサーチによる「Z世代が選ぶ好きなボトル飲料」調査で1位に選ばれるなど、高い需要が見込まれるカテゴリーとなっている。

一方で、市場では「安全性」や「成分」といった機能的価値を訴求するブランドが中心であり、ロッテはそこに新たな価値提案の余地があると考えた。そもそも、缶入り飲料水自体は決して新しい存在ではない。現在でも蓋付きの缶入りウォーターは存在しており、1990年代にはサントリーの「南アルプスの天然水」をはじめ、アサヒビール、伊藤園、ダイドードリンコなども缶入り飲料水を販売していた。そのため、「水を缶に入れる」という形式そのものに新規性があるわけではない。

では、THE DAYの新しさはどこにあるのか。本商品の核は、機能的価値ではなく、「気持ちがアガる」といった情緒的価値にある。ミネラルウォーターは本来、味による差別化が難しく、価格競争に陥りやすいコモディティ商品であるが、その中でロッテは、ゴールドカラーの缶デザインやブランドコンセプトによって、「持っているだけで様になる」「自分を演出できる」といった記号的価値を付与した。

つまり、消費者が価値を感じているのは“水”そのものではなく、その商品を持つことで得られる気分や自己表現にある。つまり、缶を手に持つ行為自体がファッションやライフスタイルの演出として機能しており、商品が一種のコミュニケーションツールになっているといえる。逆に言えば、グラスに移して飲んだ瞬間、その視覚的・記号的価値は失われるため、本商品の価値は中身以上にパッケージやブランド体験に依存している点が特徴的である。