(ブルームバーグ):外国為替市場で長年定番となっている投資戦略のキャリートレードが、数十年ぶりの好成績を上げている。市場全体のボラティリティーが予想外の低水準にとどまる中、同戦略への資金流入が加速している。
低金利通貨で資金を借り入れ、高金利通貨に投資するキャリートレードが2026年に入り好調を維持している背景には、イラン戦争に伴う原油価格の急騰にもかかわらず、世界経済が予想以上の底堅さを維持していることがある。こうした環境下で市場の変動が抑えられ、新興国の高い利回りを求める投資家のリスクテーク意欲が支えられている。
キャリートレードでは従来、資金調達通貨としてドルや、とりわけ円が広く利用されてきた。日本では金利が数十年にわたりゼロ近辺で推移していたためだ。一方、ユーロでの資金調達は分散投資の観点から合理的だ。ユーロ圏の政策金利は2.25%と、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利誘導目標である3.5%-3.75%を下回る。
シティグループなど複数の金融機関のストラテジストが最近推奨しているのが、ユーロで資金を借り入れ、ブラジル・レアル、コロンビア・ペソ、トルコ・リラで構成する通貨バスケットに投資する戦略だ。ブルームバーグが集計したデータによると、この戦略の年初来リターンは先週時点で約18%と、2005年以来の高水準となった。
キャリートレードは今年、モメンタム戦略やバリュー戦略を大きく上回る運用成績を記録している。シティグループやゴールドマン・サックス・グループ、JPモルガン・チェースはリポートで同戦略の有効性を指摘。ヌビーンやフォントベルなどの投資家も、堅調なパフォーマンスがさらに続くとの見方を示している。
JPモルガンのミーラ・チャンダン氏らストラテジストは17日付のリポートで、中東情勢がこの1カ月で再び緊迫したにもかかわらず「キャリートレードは利益を生み続けている」と指摘。「為替市場のボラティリティーが低水準にあることから、今後も好成績を維持する見込みだ」と述べた。

ドルの安定
世界の主要な準備通貨であるドル相場が今年は安定して推移していることも、キャリートレードを支える大きな要因となっている。その影響は世界の為替相場全体に及んでいる。
6月の米インフレ率が予想以上に鈍化したことに加え、市場ではFRBが年後半まで政策金利を据え置くとの見方が強まっている。こうした中、ブルームバーグ・ドル・スポット指数の1カ月物インプライドボラティリティー(IV、予想変動率)は先週、昨年12月以来の低水準に沈んだ。

ニューヨークに本社を置くヘッジファンド運営会社、NWIのハリ・ハリハラン最高経営責任者(CEO)は「地政学的な緊張や米金融政策の先行きに対する懸念がある中でも、この戦略はこれまでのところ成果を上げている」と話す。同氏は厳選したキャリートレード戦略を選好している。
同氏はブラジル・レアルなどの高金利通貨が、ユーロや円のほか、ポーランド・ズロチのようなユーロと連動性の高い通貨に対しても堅調に推移すると予想する。ブラジル・レアルとコロンビア・ペソは今年、対ドルでいずれも15%以上のトータルリターンを記録している。
リスクも多い
もっとも、キャリートレードに大きく傾斜することには相応のリスクも伴う。金利差による収益を時間をかけて積み上げる手法であるため、約5カ月前のイラン戦争勃発時や2025年初めの関税ショック時のように為替相場が大きく変動すると、それまでの収益が吹き飛ぶ可能性がある。
この戦略がいかに急速に崩れ得るかを思い起こすのに、それほど昔までさかのぼる必要はない。
2024年8月には、日本銀行が想定以上に金融引き締めへ動くとの見方が強まり、市場のボラティリティーが急上昇し、円相場が急騰した。投資家は借り入れた円の返済を急ぎ、レバレッジをかけたポジションを一斉に巻き戻した。その結果、世界の金融市場は一時的な混乱に陥った。
円は数十年ぶりの安値圏にあり、今なお主要な資金調達通貨となっている。21日には1ドル=163円台と、1986年以来約40年ぶりの円安値水準となった。
米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、ヘッジファンドの円に対するネットショートは2007年以来の高水準に近い。一方、日銀の金融政策見通しは2年前に比べて市場に十分織り込まれていると市場関係者はみている。
ヌビーンのグローバル投資ストラテジスト兼マクロクレジット責任者、ローラ・クーパー氏は「2024年夏との比較は参考になるが、過度に強調すべきではない」と指摘する。「円が急騰すれば、リスク資産全般が動揺する可能性はある。しかし、世界的なキャリートレードの無秩序な巻き戻しが再発する可能性は低い」と述べた。
FRBの動向
スタンダード・バンクのG10通貨戦略責任者スティーブン・バロー氏も、キャリートレードの好調なリターンは当面続くとみている。ただ、同氏が注視しているのはFRBだ。ウォーシュFRB議長は金融政策を巡る情報発信の見直しを約束しており、市場では政策運営に関するフォワードガイダンスが減る可能性があるとの見方が出ている。
「われわれが最も懸念しているのは、FRBによる利上げそのものではなく、FRB当局者から事前のシグナルがほとんどないまま利上げが実施されることだ」とバロー氏は先週のリポートで指摘した。
ドルの先行きや、日本当局による円買い介入への警戒感を抱く投資家は、借り入れ通貨の分散を進めている。ユーロに加え、スイス・フランやオーストラリア・ドルを資金調達通貨として利用する動きが広がっている。
フォントベルのポートフォリオマネジャー、ティエリー・ラローズ氏は「こうした『全天候型』のアプローチは、ドル相場の先行きが不透明な局面でも、一方向の相場観に頼ることなく、新興国キャリートレードへのエクスポージャーを維持することを可能にしてきた」と語った。
原題:Wall Street Talks Up Carry Trade as Returns Soar Most in Decades(抜粋)
--取材協力:Greg Ritchie.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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