ウォール街では、中国のAI開発を巡る新たな衝撃への警戒感がくすぶっている。だが中国のAIスタートアップ、ムーンショット(月之暗面)が17日、OpenAIやアンソロピックのモデルに匹敵する性能を持つとされるAIモデルを発表すると、市場は当初こそ動揺したが、大きな混乱には発展しなかった。それには十分な理由があった。

ムーンショットが開発したオープンソースのAIモデル「Kimi K3」は、各種ベンチマークで米大手の最先端モデルと肩を並べる性能を示している。今回の発表は、中国の習近平国家主席が国内最大規模のAIサミットで演説したタイミングと重なった。習氏は演説で、AI開発は「単一の国による独演」ではなく、「世界が協力して奏でる交響曲」であるべきだと強調した。

Kimi K3の登場と、その高い性能をうかがわせる内容を受けて、17日の米株式市場では大手テクノロジー株が売られ、ナスダック100指数は取引序盤に一時2.74%下落した。しかし、ニューヨーク時間正午過ぎには下げ幅を0.55%まで縮めた。

2025年1月に低コストながら競争力のある中国製AIモデルの投入を受けてナスダック100指数が3%下落した「DeepSeek(ディープシーク)モーメント」の再来を警戒していた市場関係者は、当時の混乱が結局は長続きしなかったことを思い出したのかもしれない。市場は数日間にわたり動揺し、シリコンバレーの頭脳集団にもついに互角のライバルが現れたとの見方が一部で広がった。しかしその後、DeepSeekがシリコンバレー勢より効率的なAIモデルの開発に成功したとしても、それが米企業によるAIへの巨額投資を揺るがすものではないことが明らかになった。

巨大テクノロジー各社からも同様の見方が示される可能性が高い。今週から来週にかけてAI分野の大手企業が四半期決算を相次いで発表する予定だ。仮に各社が慎重な姿勢をにじませたとしても、予測しにくいコストを踏まえて顧客企業が従業員のAI利用を制限し始めているといった米国内の動向や、半導体メモリー不足が続く世界的な供給制約などが背景にあるとみられる。Kimi K3が政治的に好都合なタイミングで発表されたからといって、こうした要因が変わるわけではない。

米テクノロジー企業の最高経営責任者(CEO)らはKimi K3の動向を注視しつつも、その競争上の脅威に過度に動揺することはないだろう。高性能でオープンソースのKimi K3が広く普及すれば、自社のクローズドモデルの収益力が損なわれる可能性はあるが、そもそもムーンショット自身が自社モデルについて、複数のベンチマークで総じて「最も高性能なプロプライエタリーモデルになお及ばない」と認めている。

中国勢がいずれ大きく持続的な優位性を確立する可能性はある。ただ、同国が本当に最先端の地位に立った場合でも、オープンソースへの熱意を維持するのか、一部の業界関係者は疑問視している。主要AIニュースレター「Transformer」は、北京には最先端のサイバー兵器を一般に公開するつもりはないだろうとみる。ホワイトハウスがアンソロピックの最先端モデルを一般公開することを認めなかったのと同じだという。

さらに、米国が自国経済の中国製AIへの依存をオープンソースかどうかを問わず、どこまで容認するのかという切迫した問題もある。中国側が米国製AIへの依存を懸念すれば、逆もしかりだ。英誌エコノミストは、「オープン性が国家安全保障や政治権力と衝突すれば、中国は即座に統制を選ぶ」と指摘した。

そう考えると、米国のAI関連株が下げ幅を縮小したのは、Kimi K3は米AI大手にとって脅威であると同時に、むしろ好材料になり得るとの見方が広がったのかもしれない。AI投資の採算性を巡る根強い疑問よりも、中国に後れを取ることへの危機感が重視される可能性がある。Kimi K3は、米国でのAI開発・導入に慎重なアプローチを求める声を抑え込みたい人々にとって、極めて有力な論拠となる。Kimi K3の発表は、ニューヨーク州が全米初となるデータセンター開発の一時停止措置を可決した週の締めくくりとなった。この措置は支持を集めているが、中間選挙を控え、同様の動きが他州にも広がるのではないかと懸念する声もある。

ホワイトハウスのテクノロジー顧問デービッド・サックス氏はX(旧ツイッター)への投稿で、Kimi K3について「懸念すべき存在だ」と指摘。「米国は自らをがんじがらめにしている。政治家や官僚は新たなデータセンターの建設を阻み、州レベルの規制を増やし、最先端モデルを事前審査する新たな連邦機関の設立を推し進めている」と批判した。

こうした主張は今後さらに勢いを増すだろう。中国の進展に対抗するには「許認可に縛られないイノベーション(Permissionless innovation)」が必要だとサックス氏は訴えた。AI推進派が飛びつくようなスローガンだ。Kimi K3は、AI投資のアクセルを緩めるべきではないとの主張を正当化する格好の論拠となる。

(デーブ・リー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、米国のテクノロジーを担当しています。以前はフィナンシャル・タイムズやBBCニュースの記者でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:Kimi K3 May Prove to Be a Gift to America’s AI Firms: Dave Lee(抜粋)

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