「乗り遅れ投資」を防ぎ、NISAを味方につける処方箋
前節のデータが示すのは、株価上昇が個人投資家の背中を押す一方で、投資タイミングや商品選択をめぐる迷いも生み出しているという現実である。NISAは、投資を始めやすくする制度であるが、制度改正で自由度が高まった分、投資家には、投資時期や投資額、商品選択を自ら決めるための投資方針がより求められるようになっている。
「乗り遅れ投資」を防ぎ、NISAを真の資産形成ツールとして活用するためには、少なくとも3つの視点が必要である。
第一に、「タイミングを見極める」という発想から距離を置くことである。投資をためらう理由の一つは、投資時期を見極めたいという心理である。しかし、相場の天井と底を正確に当てることは、専門家であっても難しい。まして、仕事や生活の合間に投資を行う個人が、日々のニュースやSNSの情報をもとに最適な投資タイミングを判断し続けることは現実的ではない。この点で、定額積立は有効な選択肢となる。毎月一定額を機械的に買い続ければ、高値で買う月もあれば、安値で買う月もある。短期的な高値掴みを完全に避けることはできないが、購入時期を分散することで、投資判断に伴う心理的な負担を軽減しやすい。
第二に、NISAの「無期限化」という制度上のメリットを正しく理解することである。NISAでは、非課税保有期間が無期限化された。これは、旧制度との大きな違いである。にもかかわらず、「早く非課税枠を埋めなければ損をする」という考え方にとらわれると、制度の本来の利点を見失う。非課税枠を急いで使い切ることが目的化すれば、相場環境にかかわらず資金を前倒しで投入する行動につながりかねない。NISAの強みは、短期で利益を確定することではなく、長期にわたり非課税で保有できる点にある。相場が上がっているときだけでなく、下がっているときにも投資を続けることで、投資時期を分散し、価格変動リスクをならしていくことが重要である。これが、制度の設計思想に沿った投資手法である。
第三に、他人の投資成果から距離を置き、自分の目的に立ち返ることである。FOMOを強める最大の要因は、他人との比較である。SNS上では、うまくいった投資成果ほど目立ちやすい。一方で、損失を抱えた経験や、途中で売却してしまった失敗は見えにくい。結果として、個人投資家は「周囲はみな利益を出している」という錯覚に陥りやすい。しかし、投資の目的は、他人より高いリターンを上げることではない。老後資金、住宅資金、教育資金、生活防衛資金など、自分や家族にとって必要な資金を、どの時間軸で、どの程度のリスクを取りながら準備するかが本来の出発点である。必要以上に高いリターンを追い求めれば、その分だけ大きな価格変動を受け入れなければならない。
日経平均株価の最高値更新は、日本経済や金融市場にとって明るいニュースである。しかし、NISAは長期の資産形成のための制度であって、長期投資家にとっては、数十年続く投資期間の中の一局面にすぎない。相場が上がれば焦り、下がれば恐怖に支配されるようでは、NISAの利点を十分に活かすことはできない。一般の生活者にとって重要なのは、非課税期間が無期限化された NISAを給与収入などのフローを長期的なストックへ育てるための中核的な制度として位置づけることである。
「乗り遅れたくない」という焦りに任せて投資行動を歪めてしまえば、本末転倒である。大切なのは、自分のリスク許容度に応じた資産配分(アセットアロケーション)を決定し、淡々と市場に居続けることだ。NISA開始から3年目を迎えた今、求められているのは、相場の熱狂に飛び乗ることではなく、ストックを増やすという本来の目的に立ち返り、長期的な視点で資産形成を続ける心構えである。
(※情報提供、記事執筆:第一ライフ資産運用経済研究所 政策調査部 主席研究員 柏村 祐)