2――女性の昇進意欲と家庭責任~共同研究の成果より~
2-1│女性の昇進意欲を妨げる要因
まず、女性の職場での活躍が、家庭との両立の難しさによって阻まれていることを、説明する。一般社団法人定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年10月、45歳以上の中高年女性会社員約1,300人を対象に行ったインターネット調査「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」では、管理職希望の有無と、その理由を尋ねた。そのうち、管理職を「希望しない」と回答した女性が理由として挙げた上位10項目(複数回答)が図表2である。
これによると、「家庭との両立が難しくなるから」との回答が2割を超えて6位にランクインした。4位の「労働時間が長くなるから」や7位の「転勤する可能性があるから」という回答も、家庭との調整に関わる理由だと考えられる。
つまり、家事育児や介護など、家庭の仕事に支障を来さないためには、管理職に就任して仕事に手を取られる訳にはいかない、という考え方だと言える。女性のキャリア形成という観点で見ると、女性の家庭責任の重さが阻害要因となっていると言える。
2-2│家庭責任の妻への偏り
日本の女性社員にとって、職場での昇進と家庭の両立が難しいのは、よく指摘されているように、日本では家事育児などが夫婦のうち妻に偏っていることがある。
OECDの2024年の調査より、日本、韓国、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スウェーデン8か国について、就業などの「有償労働時間」と、家事育児や介護、買い物などを含む「無償労働時間」を性別に比較したものが図表3である。いずれの国でも、男性は女性よりも有償労働時間が長く、女性は男性よりも無償労働時間が長いが、両方を合計した総労働時間を比べると、最も長いのは日本の女性(計500時間)だった。
このことは、日本の女性は、有償労働であれ、無償労働であれ、労働する時間を現在以上に延ばすことが、難しいと示唆していると言える。一方、日本の男性の状況を見ると、欧米の男性に比べて、有償労働時間が圧倒的に長いが、無償労働時間は圧倒的に短かった。総労働時間を比べると、日本の女性よりも短かった。
また、図表3の下の表に示したように、男女比(女性の労働時間に比べた男性の労働時間の長さ)をみると、有償労働の男女比が高いが高いのは、イタリア(1.7倍)に続いて、韓国(1.6倍)と日本(1.5倍)だった。無償労働の男女比が低いのは、日本(1.2倍)と韓国(1.2倍)だった。
これらの比較から言えることは、国内では女性の有償労働時間は欧米と比べても長く、職場進出が進んだのに、男性の無償労働時間が短いままで、男性の“家庭進出”が進んでいないと言える。
よく指摘されていることだが、夫婦の共働きが進んだのに、“共家事”や“共育児”が進んでいないということだ。男性が無償労働時間を増やさずに、女性だけが有償労働時間を増やすことは難しく、女性からの理解も得られないだろう。但しその背景には、男性の有償労働時間そのものが長いという問題があることも、この国際比較の結果から指摘できる。