3――女性活躍を進めるために必要な「男性育休」
女性活躍を進めるために、男女役割分担の見直しが必要だとはいえ、もちろん、それだけで十分ということではない。
前述した共同研究の成果や先行研究を基に、筆者なりに、女性活躍を進めるために必要な要素を図に表したものが、図表4である。「組織の態勢」、「人事制度」、「働き方」の3要素については、ダイバーシティ経営に共通して必要なものだと言えるが、女性活躍に関しては、オレンジ色の「家庭の協力」が必要不可欠な要素として加わる。
それぞれ説明すると、第1に必要なのが、水色の「組織の態勢」である。企業のトップ自ら、自社の競争力と生産性向上に資する目的で、組織として女性活躍(またはダイバーシティ経営)を推進していくことを宣言し、社員に方向を示すことである。それが実際に、各部署で進んでいくように、上司が女性社員とコミュニケーションを取って、アンコンシャスバイアスに捉われずにキャリア形成を促し、そのために必要なサポート体制を取っていくことが必要となる。例えば、子の体調不良で急に休まざるを得なくなった時に、他の社員に最低限の業務を代行してもらえるように、普段から仕事の情報をシェアしておくこと、そのためにも、業務の属人化や要員の配置を見直すことなどが、これに当たるだろう。
第2に、黄色の「人事制度」として、性別にかかわらずに、本人の能力と意欲本位で重要な職務に配置すること、ただし、中年以上の女性に関しては、キャリアが浅いケースが多いため、経験不足を補う研修などを行って補っていくこと、また管理職に対する心理的ハードルを下げる研修を行ったり、社内外のロールモデルとの交流機会を作ったりして、啓発していくことが考えられる。
第3に、グリーンの「働き方」としては、家庭と管理職の仕事を両立できるように、長時間労働を見直していくこと、在宅勤務や短時間勤務、時間単位の有給休暇などの柔軟な働き方ができるようにすること、そしてそれらが実践可能になるように、そもそも業務の在り方自体を効率化し、社内会議にオンライン出席できるようにしたり、社内決裁をオンラインで済ませられるようにしたりと、デジタル化やシステム化を進めることも必要だろう。
第4に、女性活躍に特定して必要となるのが、これまで述べてきた男女役割分業見直しを行う「家庭の協力」である。女性社員の家庭での家事育児負担を減らさなければ、職場で仕事の時間を増やすことが難しいからである。このカテゴリ―を推進する主体は家庭だが、企業には全く手出しできないかというと、そうではない。その代表的な手段が、男性有給取得推進である。
とは言え、一つの企業が、自社の男性社員の育休取得率を上げても、女性社員の夫の行動にまで波及する訳ではないが、産業界全体で取り組むことによって、社会全体で、男女役割分業の見直しに関する気運を高めていくことができる。
前述した共同研究では、アンケートと並行して大企業へのインタビューも行ったが、その中でも、今後の女性活躍の課題として、自社の男性育休取得推進を挙げた企業が複数あった。