破綻処理等に伴って生じる“費用のあり方”は

大学の経営破綻に備え、学生のセーフティネット構築に向けた仕組みについて構想を述べてきた。その他にも重要な論点として、破綻処理等に伴って生じる費用のあり方も考慮しておかなければならない。例えば、学生や保護者にも幾分か自己責任を問うべきなのか、一方で経営者の責任も問う必要があるのか。前述の「学生保護機構」といった第三者機関を設立することになれば、運営にあたり会員大学(学校法人)からの資金拠出に加え、会員大学の拠出金だけでは資金援助等が不足する場合には、金融機関からの借入や国からの財政措置(公的資金)も備えておく必要があろう。そうした社会的な負担を最小限に抑えるためにも、国として事が起きる前に経営が危ぶまれる私立大学等への具体的な早期是正措置のあり方、「学生保護機構」の目的や役割、体制等に関する制度設計が急がれる。このような環境整備は高等教育システム全体の信頼性と安定性の向上にも寄与し、結果として社会全体の利益にもつながるものと考える。

本号で示してきた制度設計は、法制面を含めまだ課題も多いと考えるが、学生保護の枠組み構築に向けた検討のきっかけになることを願いたい。


【注釈】
1. 地域連携プラットフォームとは、複数の高等教育機関と地方公共団体、産業界等とが恒常的に連携を行うための体制のこと。大学等連携推進法人とは、国公私立の設置形態の枠組みを越えて、大学等の機能分担及び教育研究や事務の連携を進めるなど、各大学等の強みを活かした連携を可能とする法人のこと。文部科学大臣の認定を受けて設立した一般社団法人の下に複数の大学が参画できる。

2. 大災害や株価の大暴落など、通常の予測を超えて発生するリスクに対応できる「支払余力」を有しているかを判断するための行政監督上の指標の一つ。具体的には、純資産などの内部留保と有価証券含み益などの合計(ソルベンシー・マージン総額)を、数値化した諸リスクの合計額で割り算して求められる。なお、比率が200%を下回った場合、監督当局が業務改善などの命令を発動することで、早期是正措置がとられる。

3.経営指導強化指標は、経営悪化傾向にあるものの直ちに適切な経営改善に取り組めば改善の余地があるという目安で、「『運用資産-外部負債』がマイナス」「経常収支差額が3か年マイナス」の2指標が設定されている。

4. 2024年8月、中央教育審議会大学分科会高等教育の在り方に関する特別部会が取りまとめた「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(中間まとめ)」参照。大学・短期大学への進学者数は、2040年度頃には年間約23,355人減少する一方で、2023度の大学・短期大学の入学定員の中央値が270人であることから、中間的な規模の大学が1年間で90校程度減少していく規模と試算された。

5. 8つの経営判断指標に基づくフローチャートに則り、学校法人の経営状態を「正常状態」「経営困難状態(イエローゾーン)」「自力再生が極めて困難な状態(レッドゾーン)」に区分。但し、全て公開情報ではなく一部は各学校法人の推計による。例えば「自力再生が極めて困難な状態(レッドゾーン)」は、過大な債務を抱えている、または大幅な教育活動資金収支差額の赤字により手持ちの運用資産を修業年限未満で使い切る等の理由により、自力での再生が極めて困難となった状態としている。

【参考文献】
・文部科学省中央教育審議会大学分科会高等教育の在り方に関する特別部会(2024年)「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(中間まとめ)」

・文部科学省中央教育審議会大学分科会(2023年)「学修者本位の大学教育の実現に向けた今後の振興方策について(審議まとめ)」

・文部科学省大学設置・学校法人審議会学校法人分科会学校法人制度改善検討小委員会(2019年)「学校法人制度の改善方策について」

・内閣府規制改革推進会議第5回人への投資ワーキング・グループ(2022年)「『事後型の規制・制度』による学校法人・学校の連携・再編及び撤退の促進に係る文部科学省の取組について」

・日本私立学校振興・共済事業団(2024年)「令和6(2024)年度私立大学・短期大学等入学志願動向」

・日本私立学校振興・共済事業団(2023年)「私立学校運営の手引き(2023年3月改訂版)」

・経済同友会(2018年)「私立大学の撤退・再編に関する意見-財務面で持続性に疑義のある大学への対応について-」

・久下眞一(2020年)「学校法人会計基準の課題-「継続性」と「健全性」を把握する観点からの見直し-」三省堂書店/創英社

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 総合調査部 研究理事 谷口智明)