そんな認識が変わったのは10年前。ベトナム戦争からの帰還兵で、心的外傷後ストレス障害=PTSDに苦しんだ元米兵、アレン・ネルソンさんの映像を見たことがきっかけだった。

アレン・ネルソン氏(故人)

「笑わない悲しそうな父親の顔と、アレン・ネルソンさんの悲しそうな顔が重なったときに “あれ?” という思いがあって」

慶次郎さんは20歳の時に軍に召集され、中国戦線へ送られていた。慶次郎さんが戦場から持ち帰ったアルバムには、黒井さんの知らない、精悍な顔つきをした父の姿があった。

陸軍兵としてゲリラ戦などに参加した慶次郎さんは部下を十数人従える「軍曹」にまで昇進していた。

「お前の父親は学業成績優秀で将来楽しみな男だったんだ、ということは何回か聞いたことがあった。アレンさんが経験したような戦争PTSDですっかり人間が変わってしまったと考えると非常につじつまが合う話で」

「働かない、表情もない、ちゃんと付き合いもできない、子どもに対する愛情すら表現できない。そういう “ダメな父親” だったのが、ダメだったのは父親ではなくて戦争(が原因)なわけで、そのことに気づかなかった俺じゃないかと」