「北島検事」VS「次男」

特捜部はこれまでの内偵捜査により具体的には、金丸側が借りていた「パレロワイヤル」の6階にある金丸事務所と、11階にある麻雀用にも使われていた部屋、この2つの部屋に「ワリシン」や「現金」が保管されているとみていた。とくに11階の一室は金丸が関係者とよく麻雀の卓を囲んでいたとされるが、奧にベッドルームなどもあり、隠し場所となっている可能性が高かった。
しかし、この2つの部屋をいくら捜索しても金庫らしきものが、全く見つからないのである。夜になっても特捜部による家宅捜索は続けられたが、「ワリシン」が入った金庫や「現金」を発見できないまま時間が経過していった。すでに日は暮れていた。

五十嵐は現場の捜索責任者に対し「事件を潰す気か、見つけるまで帰ってくるな!」と声を荒げて怒鳴ったという。そして次男の取り調べを行っていた北島に、次男を「パレロワイヤル」の捜索現場に連れていき、「隠し金庫」の場所を聞き出すよう命じたのだ。金丸本人も「あとは次男に聞いてくれ」と供述したとされ、次男に聞くしかない状況だったからだ。

金丸の次男は生原元秘書のあとを継いで、秘書として「金庫番」をつとめていた。当日も午前中から東京地検に出頭し、北島の取り調べを受けていた。北島は浦和地検(当時)から前年に特捜部に異動してきたばかり。まだ2年しか特捜部経験のない36歳だったが、五十嵐と熊﨑から高い実務能力を買われ、「極秘捜査チーム」に加わっていたのだ。

しかし、次男は家宅捜索の現場でも口を割らなかった。夜を徹して家宅捜索が続く。そこで北島は、次男をいったん、気分転換に外に連れ出すことにした。「パレロワイヤル」という名前はフランス国王「ルイ14世」が幼少期に過ごした王宮から名付けられた億ションだ。隣接する「十全ビル」と「TBRビル」と合わせたこの3つの建物は大物政治家が個人事務所を構えていたことから「権力のトライアングル」と呼ばれ、まさにその権力の拠点が今、次男の目の前で東京地検特捜部による家宅捜索を受けている…

北島は次男にひと呼吸させて、動揺する気持ちを落ち着かせようとした。外に連れ出して、まっすぐ東の方向に坂道を歩いた。5分ほど300メートル先まで行くと国会議事堂の正面についた。北島は、夜空にそびえる国会議事堂を次男に見せることで何を狙ったのだろうか。しばらく国会議事堂を周りながら、次男の説得を続けた。すると、ほどなくして次男はようやく正直に「隠し場所」を打ち明けたという。