なんと11階の部屋にあった「ワリシン」や「現金」の入った金庫を、新たに借りた4階の「隠し部屋」に移動していたのだ。次男が北島に説明した通り、4階の「隠し部屋」からは「ワリシン」や「金の延べ板」それに「現金」が入った大金庫など、不正な蓄財が大量に押収された。
この家宅捜索の様子は深夜になって一斉にニュースで映し出され、「パレロワイヤル」の玄関から重そうな大金庫を、東京地検の係官が数人がかりで運び出す映像は、金丸脱税事件を象徴するシーンとなった。北島が聞き出した次男の供述により、このときの家宅捜索で約30億円以上もの金丸側の「巨額な不正蓄財」が押収されることになる。78歳の金丸の巨額の蓄財は特捜部の想定をはるかに超えていた。
金丸側の「ワリシン」移動のナゾ
脱税事件では、国税の専門用語で「たまり」と「入り」というキーワードが使われる。「入り」はつまり、どこから得た金なのか。「たまり」とは隠し資産、不正な蓄財のことだ。金丸脱税事件の「入り」は大手ゼネコン各社からのヤミ献金であることが、生原の供述などからも判明していた。
一方で、実際の「たまり」である「ワリシン」は、現場の家宅捜索によって発見して押収しなければならない。脱税を裏付ける「ブツを押さえる」ことが、どうしても不可欠だった。ちなみに「ワリシン」を使った金丸の蓄財の手口は「東北の政商」と呼ばれた福島交通会長から指南されたとされるが、氏名を明らかにせずに無記名で購入できることが、金丸側にとって最大のメリットだった。
もしこのとき、特捜部が家宅捜索で「ワリシン」を押収できなかった場合、どうなっていたのだろうか。
特捜部長だった五十嵐は次のように振り返る。
「自民党の関係者ら第三者が”金丸先生から預かっていました”と言ってワリシンを提出することが考えられる。これだとワリシンが金丸個人に帰属するというより、金丸が時々述べていた”政界再編”の資金として、つまり個人の資産とは別にプールされていたことになり、帰属の主体が自民党などの政治団体とみる余地が出てくる」
つまり「ワリシン」が見つからなかった場合、第三者からの「ワリシン」提出により、「金丸から政界再編の資金として預かっていたもので、金丸の個人資産ではない」と弁解される恐れがあったのだ。
だが特捜部は「パレロワイヤル」から大量の「ワリシン」や「現金」を押収したことにより、こうした反論を封じ込め、金丸の「私的蓄財」であることの裏付け証拠を得たのだ。

















