「日韓の最重要懸案」の現在地

共通した安保環境への危機意識という点で、今の尹錫悦政権では前の文在寅政権よりはるかに冷え込んできた日韓関係を改善する素地があると言える。尹大統領自身が何より前向きだ。個人的には、文在寅前大統領はつまるところ日本への関心が低かったのだと思っている。彼が大統領選挙に挑戦する前、短くだが会話をした時の印象が最後まで残った。

尹政権が直面する障壁が、2国間の最大の懸案「徴用工問題」だ。太平洋戦争中の日本企業による韓国人労働者の徴用をめぐり、企業が韓国最高裁で賠償を命じられてから4年あまりが経つ。

日本政府は一貫して、1965年の日韓国交正常化の際に両国が結んだ日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」という立場だ。企業が賠償という形でこれに応じることはない。

そんな中、ソウルでは1月に異例の公開討論会が開かれた。韓国外務省で日韓問題を統括するアジア太平洋局長は、問題の長期化は避けるべきとの考えを示した。第3者が賠償を肩代わりする方案を検討していることも表明した。「日本がすでに表明している痛切な謝罪と反省を誠実に維持、継承することが重要であることに注目する」とも発言した。大きな局面転換の場面だった。

それから1か月あまりが経ったが、動きは止まっているように見える。2月中に徴用工問題を解決、3月10日に東京ドームで行われるWBC=ワールド・ベースボール・クラシックの日韓戦に合わせて日本を訪れ岸田総理と一緒に試合を観戦する案も検討されていたという。そういったムードは、今は感じられない。