“埋まらないピース”

関係者によると、韓国側は財団が肩代わりすることになる賠償をめぐり、訴訟の原告側への意思確認に時間をかけているという。原告側の説得、つまり世論形成のためには日本側の歩み寄りが必要だという声が聞かれる。
朴振外相は2月下旬、ドイツで林外相との会談を終え帰国した際、記者団に「日本側の誠意ある呼応措置が必要だ」「日本側の政治的決断を促した」と明らかにした。韓国側の焦り、とも受け取れるが、無視はできない。
日本政府は賠償に応じるということではなく、「企業」が自主的に財団に資金を出すことまで否定していない。被告企業が負担するという趣旨ではないことがポイントだと言える。
「徴用工問題」という過去ではなく“両国の未来に向けて”ということだったら、資金拠出に向けたハードルは下がるのではないか。被告企業ではなく、政府が過去の談話等を継承する形で植民地支配への反省、おわびを示すこともクリアできるだろう。ただ、あくまで企業の賠償、謝罪を求める韓国側の原告、また世論がこれで収まるとは思えない。
日本側としても埋まらないパズルのピースとして「求償権」の問題がある。日韓外交に精通する法曹関係者は、今回、第三者である財団が賠償を肩代わりしたとしても被告企業側に連帯債務が存在する余地、つまり肩代わりした側から請求されうるという「併存的債務引受」の問題点を指摘する。
「免責的債務引受」ならば、将来的に日本企業が賠償を求められることはないとも解説した。“財団の肩代わり”での決着が確約されるならば、この議論は終わるのだろう。行方は見通せないが、日本政府は“ボールは韓国にある”という立場だ。

5月にはG7=主要7か国首脳会議が広島で行われる。中国やロシアは勿論、アジアで唯一のG7メンバーである日本にとって、目の前の脅威である北朝鮮問題も喫緊の課題だ。北朝鮮と共に向き合う韓国の尹錫悦大統領を、この会議に合わせて招かないことは考えにくい。
その時、この問題はどうなっているのか。5月は尹大統領の就任1年にあたる。競合しつつ協力しなければならない隣国を追い詰めることなく日本の立場を確立させ、日韓の関係を四半世紀前の「パートナーシップ宣言」の水準まで再び高めることができれば、それは日韓両国の外交成果として歴史に残る。