前線にいるパパ「ハグをしたい」
この小学校の取材で忘れられないインタビューがある。小学二年生の女の子、ワレリアさんとのインタビューだ。
ーー学校は好き?
はい、好きです。友達や優しい先生がいるし、勉強が好きです。
ーー電気がない中の勉強は大変じゃない?
いいえ。窓があって明るいので。
たあいもない質問で進んだインタビューだったが、冬休みの予定を尋ねたところでワレリアさんの父親は兵士として前線にいることがわかった。

ーー今年の冬休みは去年と少し違うかもしれないね?
はい。今年はママとラトビアに避難します。これから状況が悪くなるので避難しなければいけないと、戦場にいるパパに言われたんです。
ーーお父さんが戦場にいるの?
はい。
ーーお父さんは今どこにいるの?
キーウから遠いところってパパは言ったけど、どこにいるのかは言わなかったの。ママからも聞いていません。
ーーお父さんに戻ってきてほしい?
はい、とても。
ーーお父さんが戻ってきたら、何をしたい?
一緒にいたいし、ハグをしたいし、公園に散歩に行きたいです。
「パパとハグをしたいし、公園を散歩したい」―。彼女の素朴な願いに胸を打たれて、私は質問を継ぐこともできなくなった。
ウクライナの人々は日常をいま奪われている。
私たちが戦争を報道する時、「領土」や「資源」、「兵器」といった大きな視点からとらえがちだ。しかし、戦争を語る時にまず忘れてはいけないのは、市井の人々の日常が奪われているということではないか。
ワレリアさんが鈴の鳴るような声で言葉にしてくれた、ひかえめな願いは、平和の本質をとらえているように思えてならない。それはありふれているけれど、はかなくて尊いものだ。まるで、ウクライナの冬の日の光のように。
執筆:村瀬健介
取材:2022年12月