空襲警報発令…避難壕へ
お昼時になって、幼稚園生が食堂に集まってきた。停電していて調理室が使えないため、この日はパンと果物という質素な昼食だ。

子どもたちが食事を始めてすぐのこと、賑やかだった食堂が一瞬、静かになった。空襲警報が発令されたのだ。次の瞬間、子どもたちが一斉に立ち上がり移動を始める。
キーウの空襲警報は、けたたましく警報音が鳴るわけではない。先生のスマートフォンに空襲警報発令の知らせが届く仕組みだ。
先生の掛け声が響く。
「早く、早く!バッグを取りに行くよ。ジャケットを着て!」
防災バッグとジャケットを持った子どもたちは整然と、地下の避難壕に移動していく。ほぼ毎日一度は授業時間中に空襲警報が発令されるのだという。子どもたちにとって、空襲警報と避難壕への移動は日常の一部になりつつある。
避難壕といっても、もともとは倉庫として使われていた地下室だ。さまざまな配管が張り巡らされた天井の低い地下室は、ほこりっぽい匂いが充満している。

奥の少しひらけた空間に、100人余りの子どもたちがすし詰め状態になっていた。さっきまで給食を食べていた幼稚園生たちも大人しく小さな椅子に座っている。小学生たちは授業中だったのだろう、すぐに算数の教科書を開いて勉強を始めていた。暗い地下室で、バッテリー式のLEDライトを頼りに勉強をしている小学生の姿は悲壮で心が痛む。

低い天井や四方を囲むコンクリート剥き出しの壁は、嫌でもそこにいる人に圧迫感を与える。換気装置はなく、大人でもストレスを感じる空間だ。子どもたちはどれだけ長くこの空間で耐えられるのだろうか…。
そんなことを考えていると、先生の一人が大きな声で歌い始めた。瞬く間に子どもたちの大合唱が始まった。歌っているのは、有名なウクライナの愛国歌「ああ野の赤いガマズミよ」だ。

ほんの少し前まで、薄暗く閉塞感に満ちていた地下空間は、ナショナリズムの情熱に包まれた。
歌の大合唱が終わると、すかさず一人の先生が掛け声をかける。
「ウクライナに栄光あれ!」
すると、生徒たちは声をそろえてお決まりのスローガンで返す。
「英雄たちに栄光あれ!」
