家を訪れた加害者の家族 謝罪とは名ばかりの振る舞い

裁判が始まる前、加害者側の弁護士から連絡があり、加害者の家族ら約10人が「謝罪のため」として自宅を訪ねてきたことがあった。

絶対に家には上げたくなかった。

「家には入れない」近藤さんの父親が拒絶すると、夫が拉致された現場の隣にある公園で対面することになった。

この対面は近藤さんの気持ちをやわらげるどころか、怒りと悲しみを一層深くした。

土下座をして謝ったのは、一家族だけ。主犯である元上司の家族は「もうあの人とは離婚しますから、私には関係ありません」と言い、その場を立ち去ったという。

謝罪とは名ばかりの、あまりに身勝手な振る舞いだと感じた。

寒空の下、加害者の親族たちと対峙した近藤さんの頭にはある思いが巡っていた。

「望んでもいないのに勝手に来た加害者の家族に対して、被害者側の私がファミレスとかに案内しなくてはならなかったの? それとも前もって公民館を予約するの?こんなことまで被害者がやらなくてはならないの?ありえない…」

加害者側には弁護士がつき、彼らの権利を守り、手続きを進めてくれる。しかし、被害者遺族には誰もついてくれない。

間に入って調整してくれる公的機関も支援者もいなかったのだ。

「今なら弁護士や支援センター、警察などがどこかの場所を手配してくれるでしょう。当時は被害者支援の弁護士もいなかった。加害者側の弁護士から言われるがままだったのです」

冬の寒い公園。ただくやしさと怒りだけが増した面会のあと、近藤さんの父は体調を崩して倒れてしまった。

だが、この屈辱的ともいえる面会は、これから始まる苦難の序章に過ぎなかった。

やがて始まった刑事裁判。

そこで近藤さんを待ち受けていたのは、夫の命が「たった10万円」で奪われたという事実と、法廷で泣き崩れた中学生の娘に投げられた「冷たい言葉」だった。

(後編記事に続く)
「加害者がうらやましくて泣いた」法廷で娘を襲った“冷酷な言葉”…絶望の底から妻が国を動かすまで