「40代の人間をこの世から消す作業…」

元上司と若者たちが逮捕されると、それまで唯一の支えだった刑事は引きあげていった。

「主人が生きているか死んでいるかわからないつらい時間でしたが、生きているかもしれないというわずかな希望のある時間を、ずっと女性刑事が私に寄り添ってくださいました。食事を作ってくれたこともありました。しかし、遺体が発見されて、犯人が捕まると、唯一の頼れる存在であった方が、私の前からいなくなってしまったのです」

犯罪被害者の権利と支援の基本理念を定めた「犯罪被害者等基本法」が成立したのは2004年12月。施行されたのは2005年4月。

2004年11月の事件当時は、まだ施行されていなかった。

被害者が十分な支援を受けられず、社会で孤立することを余儀なくされることも少なくなかった。

近藤さんが直面したのは、まさに支援の空白地帯だった。

悲しみを感じる時間もないまま、「やるべきこと」が押し寄せた。

葬儀のために駆け付けた親族の世話、10人以上の食事の支度。泣き続ける家族の中で、近藤さんはひたすら「ごめんなさい」と謝りながら、お茶を出し続けた。

誰もが心配してくれる。しかし、誰も殺人事件の後に何をどうしていいかは知らない。近藤さん自身が不安で苦しくて押しつぶされそうだった。

それでも自分でやらないといけないことが多すぎた。

「事件後の事務処理が、私には次々とやってきました。パソコンのパスワード解除、銀行、保険…。毎日、毎日40代の1人の人間をこの世から消す作業です。それをすべて私自身がやらねばなりませんでした」